エスカレーターは歩いた方が効率的?止まった方が輸送量が多くなる意外な理由

鉄道、列車、駅

通勤ラッシュや駅構内で見かけるエスカレーターの利用マナーには、地域によって左右どちらに立つかの違いがあるほか、「片側を空けて歩く」文化が根付いているところも多いです。しかし、実際の輸送効率を考えたとき、エスカレーターは「両側に人が立って止まっている方が効率的」と言われることがあります。今回は、このトピックについて交通工学や都市設計の観点から検証してみましょう。

エスカレーターの構造と基本的な輸送能力

エスカレーターは、1ステップあたり1人ずつ乗ることを想定して設計されています。一般的なエスカレーターでは、1分間に輸送できる人数は約90〜120人とされており、これは乗る人がステップごとに立ち止まっている状態を想定したものです。

一方、片側を空けて歩く文化があると、歩く人の間隔が空くため、結果的に立ち止まっている人の数よりも1分間あたりの輸送人数が減ることが交通研究で明らかになっています。

歩く速度が速くても、人の流れは「途切れ」が発生しやすく、全体の輸送効率が下がるという逆説的な結果になります。

両側歩行vs両側静止の輸送効率を比較した実験

いくつかの都市では、実際に両側歩行と両側静止のシミュレーションや実験が行われています。たとえば、ロンドンの地下鉄で実施されたテストでは、「両側を静止して乗る」方式にしたところ、ラッシュ時の輸送人数が最大30%増加したというデータがあります。

また、日本でも国土交通省や民間鉄道会社が共同で行った実証実験では、片側を空けると平均輸送人数が1分あたり約25人少なくなるという結果が出ています。

この結果から、「歩いた方が早く着く人はいるが、全体の人数をさばくという点では不利」ということがわかります。

なぜ歩くと効率が下がるのか?

歩行者は一定の間隔を保ちながら前の人との距離を取るため、常にステップのすべてが埋まるわけではありません。つまり、歩く側は必ず「空き」が発生する構造になります。

反対に、両側で立ち止まって乗ってもらうと、ステップの1段1段に人が乗ることになり、無駄がなくなります。これは都市設計や人の流れを最適化する「交通流理論」でも広く知られた原則です。

さらに、高齢者や子どもがエスカレーターを安全に利用できるという点でも、静止利用が推奨されています。

社会的背景と“片側空け”文化の見直し

日本では、東京をはじめとする多くの都市で「左に立ち、右を空ける」、関西では「右に立ち、左を空ける」といったマナーが浸透していますが、これは輸送効率よりも「急いでいる人に配慮する」という文化的背景が大きいです。

しかし現在では、国土交通省や鉄道会社が「歩かず両側に立ちましょう」と啓発する動きが強まりつつあります。安全面と輸送量の両方を考慮した結果です。

特に大規模イベントや災害時など、多数の人が一斉に移動する必要がある場面では、立ち止まって利用する方が圧倒的に効率的になります。

効率より“公平性”を重視するという考え方も

「自分は急いでるから歩きたい」というニーズと、「安全に利用したい」「足が不自由で動けない」という人の共存をどう実現するかが今後の課題です。特定の人にだけ有利なシステムより、誰もが安心して使える交通手段を目指すことが重要です。

輸送量の最適化とともに、社会全体の合意形成やマナー教育が大切になるということを、エスカレーターの利用一つからでも学べるのです。

まとめ:歩くより立ち止まった方が「全体効率」は高い

エスカレーターにおける「歩いた方が速い」という直感は、個人の移動時間においては正しいかもしれません。しかし、輸送効率や安全性、社会的公平性の観点から見ると、両側に人が立ち止まって利用する方が優れているという結論に至ります。

今後も都市部を中心に、エスカレーター利用の見直しやマナー改善が進む中で、個人の意識も変えていくことが求められるでしょう。

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