日本の固有種であるニホンカモシカは、その貴重さから国の特別天然記念物に指定されています。しかし一方で、動物園では実際にニホンカモシカを見ることができます。これは一見矛盾しているようにも思えますが、実は明確な法的根拠と運用基準のもとで行われているのです。
ニホンカモシカはなぜ特別天然記念物なのか
ニホンカモシカ(Capricornis crispus)は日本固有のウシ科動物で、1934年に天然記念物、1955年には「特別天然記念物」に指定されました。これは、絶滅のおそれがあったり、生態系保全の観点から極めて重要とされる生物に適用されるものです。
特別天然記念物の指定は文化財保護法に基づくものであり、文化財的価値を有する生物に対する保護措置の一環です。
文化財保護法における飼育の取り扱い
特別天然記念物に指定された動物は、原則として捕獲・移動・飼育が厳しく制限されます。しかし、学術研究や教育目的、または保護繁殖のための飼育など、文化庁の許可が下りた場合には例外的に可能となっています。
動物園でのニホンカモシカの飼育もこの例外措置に該当しており、各園は文化庁に申請して正式な許可を得たうえで、厳格な管理体制のもとに飼育しています。
動物園が果たす役割とは
ニホンカモシカを飼育する動物園は、単に展示を目的としているわけではありません。繁殖による遺伝子多様性の確保、行動学的研究、教育活動など、複数の公益的役割を担っています。
たとえば、上野動物園や多摩動物公園では、自然に近い環境でニホンカモシカの行動を観察できるよう工夫されており、来園者にとっても貴重な学習機会となっています。
飼育個体はどこから来るのか
動物園で飼育されているニホンカモシカは、野生で傷ついた個体を保護したものや、過去に保護目的で飼育された個体の子孫が中心です。文化庁の許可のもとで繁殖され、その個体群が引き継がれているのです。
また、これらの個体はすべて登録・管理されており、勝手に繁殖や譲渡が行われることはありません。
他の特別天然記念物との違い
すべての特別天然記念物が動物園で飼育できるわけではありません。たとえばトキやヤンバルクイナなども特別天然記念物ですが、保護施設に限定されるなど、飼育や展示の可否は生物種や個体数、保護方針によって異なります。
ニホンカモシカの場合は、野生個体数が安定しており、一定の範囲で飼育展示が許可されているという事情があります。
まとめ:文化財としての価値を守るために
ニホンカモシカが動物園で飼育されているのは、法的手続きと明確な目的に基づいてのことです。文化財保護と教育普及、研究のバランスを保ちながら、日本固有の貴重な動物の理解を深める場として、動物園は大きな役割を果たしています。


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