内陸部の縄文遺跡から、塩分を含む温泉成分が付着した縄文土器が発掘された事例は、当時の人々が温泉を利用して塩を得ていた可能性を示唆しています。現代の視点から見ても、温泉から塩を作ることは技術的に可能です。本記事では、温泉製塩の原理や歴史的背景、縄文土器に残された痕跡の意味について考察していきます。
温泉から塩を作ることは可能か?
温泉の中には、海水由来の塩分を含むものが存在します。特にナトリウム-塩化物泉と呼ばれる泉質では、海水に近い成分比率で塩分が含まれているため、蒸発させることで塩を抽出することが可能です。
現代でも秋田県の「大潟村塩の道温泉」など、一部地域では温泉水を利用して伝統的な製塩が行われています。温泉水を鉄鍋などで煮詰め、塩の結晶を取り出すという方法が用いられています。
縄文時代に温泉を利用した痕跡とは
内陸部で発掘された縄文土器の内面や表面から、塩化ナトリウムや微量元素を含む温泉成分が検出されることがあります。これは、単に塩分の付着ではなく、土器内で温泉水を加熱・煮沸していた可能性を示しています。
たとえば群馬県や長野県など、海から遠く離れた内陸でも塩分が検出された土器が見つかっており、これが温泉を利用した製塩だったのではないかと考えられています。
製塩の方法と道具の推定
縄文時代の製塩には、海水や温泉水を土器に入れて煮詰める「煎熬(せんごう)式製塩法」が使われていたと推定されています。この方法では、繰り返し煮詰めることで塩の濃度を上げ、最終的に結晶化させて塩を得ます。
発掘された土器の中には、繰り返し加熱によって内面がガラス化しているものや、縁が変形しているものがあり、これが製塩用に使用された可能性が指摘されています。
なぜ内陸で塩が必要だったのか
人間の生存に塩は不可欠です。縄文時代でも、保存食の製造や体内の塩分補給のため、塩の需要は高かったと考えられます。内陸部では海水を得ることができないため、温泉という自然資源から塩を得る知恵が発達した可能性があります。
また、内陸で得た塩は、交易品として沿岸地域とも交換されていた可能性があり、古代の経済活動の一端を担っていたと考えられています。
現代の温泉塩との比較
現在でも「温泉塩」や「地熱塩」などとして販売されている塩は、温泉水を原料としたもので、古代の製法を応用した例も少なくありません。たとえば大分県別府では、地熱と温泉水を活用して塩を作る取り組みもあります。
このように、温泉から塩を作るという技術は古代から現代に至るまで脈々と受け継がれており、学術的にも注目されています。
まとめ
温泉から塩を作ることは技術的に可能であり、縄文時代の人々も内陸でこの方法を活用していたと考えられます。塩分が付着した縄文土器はその証拠の一つであり、当時の生活や知恵を読み解く重要な手がかりとなっています。現代の温泉塩とも共通点が見られ、自然資源を生かした持続可能な技術として今後も注目されるでしょう。


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