ジェット旅客機が離陸後すぐに推力が低下する――これは稀な事象ながらも、航空安全の観点から無視できない現象です。この記事では、離陸直後の推進力喪失が起こる可能性のある要因や、パイロットや航空機システムがどうそれに対処するかを専門的かつ具体的に解説します。
ジェット機の推力低下に関する基礎知識
通常、離陸時は最大離陸推力(TO/GA)を使用し、エンジン性能のモニタリングが常に行われています。特にV1(離陸決心速度)以降はエンジン停止が起きても離陸継続が前提となるため、信頼性が極めて高い状態であるべきです。
それでも推力が落ちる場合には、複数の要因が絡んでいる可能性があります。
推力低下の主な原因と想定されるファクタ
- バードストライク:離陸直後は鳥との衝突リスクが高く、エンジン損傷による出力低下が起こり得ます。
- エンジン制御システム(FADEC)の不具合:現代機では自動制御システムに異常が起きると出力制限がかかるケースもあります。
- センサーの誤作動:エンジン温度、圧力センサーなどの誤検出により、エンジン保護のために出力を自動で下げることがあります。
- 空気取入口の障害(FOD):滑走路上の異物を吸い込んだことによるコンプレッサーストールのリスクも。
- 燃料系統の問題:ポンプ故障やフィルター詰まりなどによる燃料流量不足も想定されます。
システムのアラートと人為的ミスの関係
現代の旅客機は多数のセンサーとアラート機能を備えており、主要系統の不具合は基本的にコックピットに通知されます。たとえば、出力が設定値に到達していない場合、「ENG THRUST NOT SET」や「ENG FAIL」などのメッセージが表示されるのが一般的です。
ただし、離陸時の一瞬の判断は極めて忙しく、パイロットが異常に気づいても対応する時間が限られているため、V1を過ぎていると離陸中止は不可能です。
過去の実例と教訓
代表的な事例として、2008年のブリティッシュ・エアウェイズ38便が挙げられます。着陸進入中に両エンジンが推力を失いましたが、原因は燃料が凍結したワックス状の物質により燃料フィルターが詰まったことでした。
また、2019年には某アジア系LCCで離陸直後にエンジンが出力低下したケースがあり、離陸前のブリードエア設定ミスが原因だったとされています。
乗客が知っておきたいこと
万が一推力低下が発生した場合でも、パイロットは離陸前から「エンジン片発離陸(エンジン1基停止状態での離陸)」を訓練しています。機体も片側エンジンで安全に上昇・旋回できるよう設計されています。
また、トラブルがあった場合には即座に最寄の空港に向かう「リターン・トゥ・ベース(RTB)」も想定されています。つまり、旅客機の安全性は多層構造で守られているのです。
まとめ
離陸直後の推力低下には、鳥との衝突、FADECの誤作動、燃料系統の異常など多様な原因が考えられます。しかし、現代の航空機は高度なセンサーと警告システムを備えており、多くの場合は事前または即座に察知可能です。パイロットも徹底した訓練を受けており、乗客が過度に不安を感じる必要はありません。


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