2025年6月に発生したE8系新幹線の補助電源装置トラブルは、単なる機器故障ではなく車両システム全体に影響を及ぼすものでした。本記事では「補助電源とVVVFが別系統なのになぜ加速できないのか?」という疑問に答える形で、新幹線の電源構成とその依存関係、そして「非常力行」の有無について詳しく解説します。
新幹線の電源系統の基本構成
新幹線は主に以下の電源系統を持ちます:
- 主回路電源:主変圧器~VVVFインバータを介してモーターを駆動
- 補助電源装置:車内照明、空調、制御回路、センサー、情報通信などを駆動
VVVFと補助電源装置(SIV:静止形インバータ)は構造上は別系統ですが、実際の運用では相互依存しており、補助電源がダウンすると制御系が動作しなくなる可能性があります。
補助電源装置が加速不能に直結する理由
一見無関係に見える補助電源の故障が、なぜ車両の加速や運転そのものを不可能にするのでしょうか?主な理由は以下の通りです。
- 制御系統の電源を供給している:VVVFは独立していても、それを制御する司令系統は補助電源由来の低圧電源を使用しています。
- セーフティロジックの制約:安全設計上、一定電源電圧が確保できないとVVVFの出力そのものが許可されません。
- 表示・操作系の停止:運転台表示や制御パネル、EB(非常ブレーキ)解除なども補助電源供給。
これらが満たされない場合、安全装置が起動して出力が遮断され、列車が動かなくなる仕組みになっています。
非常力行機能の有無
在来線特急や一部通勤車両には「非常力行」機能が搭載されていることがありますが、新幹線は安全性を最優先に設計されており、補助電源が完全にダウンしている状況下で走行可能にする「非常力行」は基本的に搭載されていません。
例えば、補助電源ユニットの一部喪失時には片側走行できる冗長構成もありますが、全断時は完全停止が原則です。
E8系のトラブル実例
2025年6月17日、補助電源のSIVが故障し、加熱と電圧異常で保護回路が作動。制御系の信号が遮断されたことで、運転台の出力許可が取れず、加速できない状態になりました。
G8編成など複数編成で同様の現象が起きたことから、同一ロットまたは設計上の耐久不足が疑われています。
設計上の冗長性と今後の課題
補助電源装置には通常、2系統または3台構成による冗長性が設計されています。しかし、E8系ではそれが想定通りに機能せず、1台の障害が車両全体の機能停止に繋がりました。
- 冗長構成が実効性を持たなかった
- 保護回路の設定が過剰に働いた
- 想定以上の負荷がかかる運用環境
いずれも設計レビューや現場試験による検証が必要とされています。
まとめ:安全設計と運行性のバランスが課題
補助電源装置は「直接駆動に関係ない」と思われがちですが、現代の車両では全ての制御・通信・安全装置に関わる中核システムです。その停止は即、車両の停止に直結します。
VVVFとの独立性があっても実際の運用では依存関係が強く、非常力行の設計思想も見直しが求められる局面かもしれません。今後の調査報告と対策動向にも注目していきましょう。


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