飛行機の「失速」と聞くと、多くの人が「エンジンが止まる」や「墜落する」といった不安を抱くかもしれません。しかし、航空用語での失速はそれとは異なる現象です。本記事では、飛行機が「失速する」とはどういう状態なのかを、専門用語を極力使わずにわかりやすく解説します。
■「失速」はエンジン停止ではない
航空機の「失速(ストール)」とは、翼が揚力(浮く力)を生み出せなくなった状態のことです。これはエンジンの不具合ではなく、飛行機の姿勢や速度が原因で起こります。したがって、エンジンは正常に動いていても失速は発生します。
たとえば、飛行機が急に上昇しすぎたり、速度が極端に落ちると、空気の流れが翼の表面から剥がれ、揚力が減少。この状態を「失速」と呼びます。
■どうやって失速が起きるのか?
飛行機の翼は、ある角度(迎角といいます)まで空気を上手に受け流すように設計されています。しかし、角度が大きくなりすぎると、空気がうまく流れず、翼の上に気流が渦を巻いてしまい、揚力が激減。これが失速です。
特に離陸直後や着陸直前のように速度が遅い状況では、パイロットが急な操縦をすると失速が起こりやすくなります。
■失速すると飛行機はどうなる?
失速すると、飛行機の機首が下がり、急降下のような状態になります。ただし、すぐに墜落するわけではなく、多くの航空機はこの状態から回復できるように設計されています。
パイロットは速度を上げる、機首を下げるなどの操作で揚力を回復させ、通常の飛行に戻すことができます。現代の旅客機には自動的に失速を警告するシステムも搭載されており、安全性は非常に高く保たれています。
■実際の事例:失速のシミュレーション訓練
航空会社では、パイロットに対し「失速回復訓練」が定期的に行われています。これはシミュレーターや実機を使って意図的に失速させ、冷静な操作で回復する練習です。緊急時でも対応できるように、年間数回の反復訓練が義務付けられています。
また、アクロバット飛行を行う小型機では、わざと失速を引き起こしてスピンに入る演技もあります。これは訓練されたパイロットだからこそできる高度な操作です。
■なぜ旅客機では滅多に失速しないのか
現代の旅客機は自動操縦やコンピューター制御により、失速が起きないように設計されています。たとえば、操縦桿を急激に引いても、システムが自動的に動作を制限する「フライ・バイ・ワイヤ」という技術が導入されています。
そのため、通常の旅客飛行で失速が発生する可能性は極めて低く、安全性は十分に確保されています。
■まとめ
「飛行機の失速」とは、エンジンの停止ではなく、翼が空気の流れを受けられなくなり、浮く力が失われる状態のことです。現代の航空機では回避・回復のための訓練やシステムが整っており、ほとんどのケースで安全に対応できます。
正しい知識を持つことで、空の旅への不安もぐっと減らすことができるでしょう。


コメント