深夜の勤務や繁華街での乗り入れが多いタクシードライバーにとって、泥酔者への対応は非常に悩ましい問題です。特に、付添人がいる場合に乗車を拒否できるのかどうか、トラブルを避けるためにも法的な根拠と現場対応のポイントを把握しておくことが重要です。
旅客自動車運送事業運輸規則における乗車拒否の規定
国土交通省の「旅客自動車運送事業運輸規則」第13条には、「他の旅客に迷惑を及ぼすおそれのある者」に対しては乗車を拒否できると定められています。これは「泥酔している者」も該当する内容であり、付添人がいても本人の状態が明らかに危険であれば乗車拒否の正当な理由となり得ます。
また、乗車によって「車内の設備を著しく汚損するおそれ」がある場合や、「行き先を伝えられない」ほどの状態であれば、安全運行を妨げる要因と判断されます。
付添人がいる場合の判断基準
付添人がいたとしても、以下の点がクリアされなければ乗車を拒否しても法的には問題になりません。
- 付添人がしっかりと同乗して状態を把握・制御できるか
- 目的地が明確で、付添人がそれを説明できるか
- 車内を汚す、嘔吐するなどの明確なリスクがないか
つまり、付添人がいても「安全運行に支障がある」と判断した場合、運転手には乗車拒否の裁量があります。
実例:対応後に苦情や通報された場合は?
ご質問のように、「タクセンに通報された」「名前を控えられた」などのケースでも、正当な理由に基づいた乗車拒否であれば処分対象にはなりません。ただし、対応が感情的だったり、説明不足だったりすると、クレームとして会社に報告される可能性はあります。
このような場合には、次のような記録を残しておくと安心です。
- 日時・場所・乗車拒否の理由(例:歩行不能、嘔吐リスク)
- 付添人とのやりとり内容
- 周囲の状況(防犯カメラがあるか等)
会社やタクセンによる処分の可能性
乗車拒否が不適切と判断された場合、会社から注意や指導が入ることはあっても、いきなり「乗務員証の返納」や「営業停止」になることは稀です。繰り返し不適切な対応があった場合や、暴力・差別的発言を伴った場合などは別ですが、正当な範囲内であれば処分の対象にはなりません。
なお、会社がドライバーを守るためにも、マニュアル化された対応方針を設けている場合もあるため、都度上長に報告する体制を整えておくことも重要です。
泥酔客対応時のベストプラクティス
実務的には以下のような対応を心がけると、トラブルを最小限に抑えられます。
- まずは冷静に受け答えし、理由を丁寧に説明
- 「安全運行上の理由」を明確に伝える
- 周囲の目を意識して毅然とした態度をとる
- 不安があれば無線やアプリ配車元へ報告
また、付添人に「車内で嘔吐等があった場合はクリーニング代を請求する」旨を事前に説明し、了承を得ることも有効です。
まとめ:付添人がいても乗車拒否は可能。ただし説明と記録がカギ
タクシー運転手は、旅客の安全と車両設備の保全を守る責任があります。付添人の有無にかかわらず、明確なリスクがあれば乗車拒否は正当とされます。大切なのは、理由を明確に伝えること、記録を残すこと、冷静な対応を心がけることです。
万が一のクレームにも備え、社内ルールと国の規則を再確認しておくことで、自信を持って対応できるでしょう。


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