日本の宅配業界では、ヤマト運輸が貨物専用航空会社「ヤマトグループ航空(仮称)」の設立を発表し、話題を集めています。一方で、ライバルである佐川急便(SGホールディングス)は、独自の航空会社を設立する動きを見せていません。2024年以降の「2025年問題」が迫る中、なぜ佐川は貨物航空に踏み出さないのでしょうか?物流構造や経営戦略の観点からその理由を紐解きます。
ヤマト運輸が航空貨物会社を立ち上げた理由
ヤマトホールディングスは2024年、新たな貨物専用航空会社の設立に踏み切りました。その背景には「航空貨物の自社コントロール化」があります。
特にEコマースの拡大や即日配送ニーズの高まりから、夜間帯・遠隔地への即応力が求められており、従来のANA・JALとの委託ベースでは柔軟性に欠けると判断したとされます。
さらに、羽田・関西・新千歳を拠点とする深夜貨物便で、Amazonや楽天のような大口クライアントのニーズにも応える戦略を描いています。
佐川急便の空輸はどうなっているのか
佐川急便は独自の航空会社こそ保有していませんが、ANA Cargoや日航(JAL)といった大手航空会社との提携により、空輸ネットワークをすでに構築しています。
また、グループ会社のSGムービングやSGモータースなどを通じて、陸上輸送の機動力・自社倉庫網に注力しており、「総合物流サービス」へのシフトを強めているのが実情です。
つまり、空輸だけを切り出して垂直統合する必要性をそこまで感じていない可能性があります。
2025年問題とは何か?なぜ物流業界に影響する?
2025年問題とは、日本の高齢化による労働力不足が本格化し、物流業界でもドライバー・倉庫作業員・航空スタッフなどの人材確保が難しくなる問題を指します。
加えて、働き方改革関連法の影響で2024年4月から「運送業への時間外労働規制」が強化され、「2024年問題」としてすでに影響が出始めています。
これにより「ドライバーだけで運べる量が限界に達する」中、ヤマトは航空貨物の自社化で労働力を補完しようとしているわけです。
佐川が航空会社を持たない理由と戦略的な判断
佐川が貨物航空会社を持たない主な理由には、以下のような戦略的要因が挙げられます。
- 初期投資が莫大:航空会社の立ち上げには数百億円規模の資金が必要で、投資回収には時間がかかります。
- 既存の空輸インフラが充実:ANA・JALとの契約により、ある程度の輸送網はすでに確保できている。
- 陸送・拠点型の効率追求:地上網・倉庫・中継センターの自動化により、陸送でも高速性・効率性を補っている。
- フルフィルメント事業への注力:Eコマース物流の一括受託など、高付加価値分野へのシフトが進行中。
実際、SGホールディングスは中期経営計画でも「陸送強化」と「DX化」に重点を置く姿勢を明確にしており、空輸分野は外部活用による効率化を志向していると考えられます。
航空輸送は万能ではない?リスクもある投資分野
航空貨物はスピードに優れる一方で、天候リスク・運航規制・燃料価格変動などの外的要因に影響されやすく、安定供給が難しい側面もあります。
さらに、貨物機の定期運航には空港発着枠・整備体制・パイロットの確保など多くのハードルが存在し、フルスケール運用には高い技術力と人材力が求められます。
こうしたリスクを考慮し、佐川は「外部インフラ活用+内部効率化」という両輪戦略を採っているともいえるでしょう。
まとめ
佐川急便が貨物航空会社を立ち上げていない理由は、単に出遅れではなく、すでに構築済みの空輸ネットワークの活用と、他分野への経営資源集中という戦略的判断によるものです。
ヤマトの航空会社設立は一つのアプローチですが、それが唯一の正解というわけではありません。2025年問題に向けて、各社がそれぞれの強みを活かした施策を展開している点に注目することが重要です。


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