北海道の旧国鉄羽幌線にかつて存在した苫前駅は、苫前町の町名を冠していたにもかかわらず、町の中心部からはやや離れた位置にありました。一方で、実際の行政・商業の中心は古丹別(こたんべつ)地区にあり、こちらには交換設備を持つ古丹別駅が設置されていました。本記事では、苫前駅の駅名の由来や設置位置、駅の役割の違いについて、当時の鉄道計画や地域構造をもとに掘り下げていきます。
苫前町と駅名の関係:地名と駅名は必ずしも一致しない
鉄道路線における駅名は、しばしば行政区画の名称と一致するように設定されます。特に国鉄時代は、町名や村名を冠した駅を沿線に1つは設ける方針が一般的でした。
そのため、たとえ中心部から離れていたとしても、「苫前町に属している」地点に駅があれば、苫前駅という名前が与えられることは自然な流れでした。これは、他の市町村でも見られる事例です。
なぜ苫前の中心に駅がなかったのか?地理と鉄道敷設の制約
苫前町の中心である古丹別地区は、内陸の高台に位置し、当時の鉄道敷設には地形的・技術的な課題がありました。一方、苫前駅が設置された海側の平坦地は、線路を直線的に敷設しやすく、建設費も抑えられるというメリットがありました。
このように、鉄道建設では地形や河川の影響から、中心市街地を通らずに郊外を走るルートが選ばれることも珍しくありません。これは効率とコストのバランスを重視した結果です。
古丹別駅が実質的な中心駅だった理由
古丹別駅には列車交換設備(いわゆる相対式ホーム+待避線)があり、地域の主要な拠点駅として運用されていました。駅前には役場・商店・学校などの公共施設が集中し、苫前町の事実上の中心地でもありました。
実際、地元住民の交通の中心は古丹別駅であり、鉄道利用においても古丹別駅の方が乗降客数が多かったとされます。
駅名の不一致は苫前駅に限らない:全国の類似事例
駅名と行政中心が一致しない例は全国各地に存在します。たとえば。
- 新宿区役所は「新宿三丁目」駅の近くで、「新宿駅」からは徒歩10分以上離れています。
- 東松山駅(埼玉県)は、実際の市役所からやや距離があり、利便性が最も高いのは別の駅とされるケースもあります。
これらの事例からも分かるように、駅名=行政中心とは限らず、名称には別の優先順位が働いているのです。
苫前駅の片面ホームはなぜ?設備格差の背景
苫前駅は単線片面ホームのみで、列車交換の機能を持ちませんでした。これは、当初から主要駅として計画されていなかったことの証でもあります。
路線の運行上、古丹別や羽幌などで交換・退避を行う体制が整っており、苫前駅は単に通過・停車のためのポイントに過ぎなかったのです。
まとめ:駅名には歴史と行政的な配慮がある
苫前駅が苫前町の中心部ではない場所に設置され、片面ホームの小規模駅だった背景には、鉄道計画上の地理的制約と、行政単位への配慮という二つの要素が影響していました。
駅名に違和感を覚えるような事例も、視点を変えて見ると、その土地の歴史や鉄道政策の痕跡として理解できるのです。

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