飛行機の安全性は高度な冗長性によって保たれています。その中でも、あまり一般には知られていないが重要な装置のひとつが「APU(補助動力装置)」です。特に、飛行中に両翼すべてのエンジンが停止するような非常事態において、APUが果たす役割は極めて大きく、航空機の電力や油圧系統を維持する最後の砦とも言えます。この記事では、APUとは何か、どんな機能を持ち、どのような状況で活躍するのかを分かりやすく解説します。
APU(補助動力装置)とは何か?
APUとは「Auxiliary Power Unit(補助動力装置)」の略で、通常は航空機の尾部に搭載されている小型のガスタービンエンジンです。主に地上で使用され、エンジン始動時の電源や空調の供給、機内電源の供給などに用いられます。
APUは機体の主要エンジンとは独立しており、メインエンジンが停止していても電力と空気圧(エア)を供給することが可能です。これにより、空港の外部電源に依存せずに機能を維持することができます。
飛行中にAPUは使えるのか?
多くの旅客機では、通常APUは地上でのみ使用されますが、緊急時や特定の飛行条件下では飛行中でも使用可能です。たとえば、ボーイング777やエアバスA330などの一部の機体では、飛行中にAPUを起動できる設計になっており、非常時の電源・油圧源として機能します。
ただし、APUの性能や使用可否は機種によって異なるため、すべての航空機で同じように使えるわけではありません。
エンジン停止時の電源確保:APUとRATの役割分担
飛行中に全エンジンが停止すると、機体の主電源・油圧源が失われます。そこで登場するのがAPUとRAT(ラムエアタービン)です。RATは機体外部に設置された小型タービンで、空気の流れで回転し最低限の電力と油圧を供給します。
一方、APUはより安定した電力を供給可能で、重要な計器やフライトコントロールシステムの維持に役立ちます。特に、RATは短時間の使用に限られるため、APUが起動すればより安全な状況に戻すことができます。
具体的な事例:エンジン停止後のAPU起動
2001年に起きた「エールフランス358便」の事故では、オーバーラン時にAPUが作動し、機体内の電力と火災対応装置が作動しました。こうした装置が起動したおかげで、乗客乗員全員が迅速に脱出することができました。
また、2009年の「ハドソン川の奇跡」として知られるUSエアウェイズ1549便の不時着事例では、RATが展開されたものの、APUは地上での電源供給を担っていました。これらの事例からも、APUが航空安全に果たす役割の大きさが分かります。
パイロットはいつAPUを使うのか?
通常、APUは駐機中やエンジンスタート前後に使用されますが、飛行中にエンジンが停止するような緊急事態では、パイロットはマニュアルに従ってAPUの起動を試みます。これにより、コックピット内の主要機器や飛行制御系統が再び稼働可能になります。
また、極端な寒冷地や電力不安定な空港での離着陸時にも、補助的にAPUを作動させておくケースがあります。
まとめ:見えない安全装置APUの重要性
航空機に搭載されるAPUは、通常は乗客の目に触れることはありませんが、緊急時には命を守る縁の下の力持ちです。全エンジン停止というまれな事態にも対応できるよう設計されており、航空機の冗長性と安全性を支える不可欠な存在です。
航空機のシステムを理解することで、飛行機の安全性に対する信頼をより深めることができるでしょう。


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