飛行機内で「お医者さまはいらっしゃいませんか?」とアナウンスが流れるシーンは、映画やドラマでもよく見かけます。ですが、実際の現場では、医師が手を挙げないこともあるという声があります。本記事では、なぜ一部の医師がドクターコールに応じないのか、その背景にあるリアルな事情を探ります。
■医師が手を挙げない理由とは?
医師がドクターコールに応じない理由には、いくつかの現実的な要因が挙げられます。多くは法的・倫理的なリスクと職務環境の制限に関係しています。
- 法的リスクの懸念:海外では医療行為により訴訟リスクが生じるケースもあり、医師が慎重になる理由の一つです。
- 責任の不明確さ:医療設備が不十分な中での処置は限界があり、誤った判断で患者に悪影響が出た場合、自責を感じることを避けたいという心情もあります。
- 専門外である可能性:たとえば眼科医や皮膚科医は急性期対応の経験が少なく、内科的・外科的な緊急処置には自信が持てない場合もあります。
■航空会社と医師の立場の微妙な関係
一部の航空会社はドクターコール対応に際して、医師に謝礼や感謝状を用意している場合がありますが、それでも法的な免責が不明瞭であるケースも多く、医師にとって心理的なハードルが高くなっています。
日本国内では民事責任の問われる可能性は低いとされており、「善意の行動」による法的保護があるという見解もありますが、海外では事情が異なります。
■実際に手を挙げた医師の体験談
ある救急医師は、国際線で心拍数が異常に高い乗客の対応を行いました。その結果、乗客は安定し、航空会社から感謝の意を受け取ったといいます。
一方で、別の内科医は、患者の症状に対して必要な機器や薬品がない中での対応に苦慮した経験があり、「不完全な医療行為」に対する責任の重さを実感したとのことです。
■もしも応じるなら準備すべきこと
医師が飛行機に乗る際、以下のような備えをしておくと安心です。
- 身分証明(医師免許の写しや名刺など)
- 航空会社のポリシーの事前確認
- 基本的な応急処置スキルのアップデート
また、日本航空(JAL)や全日空(ANA)などでは、医師登録制度(メディカルサポート登録)を提供しており、登録済みの医師はスムーズに協力がしやすくなっています。
■患者の命とリスクの間で揺れる判断
誰かの命を救えるかもしれないという使命感と、自分が背負う可能性のあるリスク。そのはざまで揺れるのが医師という立場です。
一見冷たく感じるかもしれませんが、手を挙げないという選択には、医療従事者としてのリアルな葛藤があることも理解すべきでしょう。
■まとめ:医師の判断を尊重し、支える社会的理解が必要
飛行機内でのドクターコールに応じるか否かは、医師にとって大きな判断です。そこには専門性の違い、法的リスク、精神的負担といった複雑な事情が絡んでいます。
私たち乗客も、「医師なら助けて当然」と一方的に考えるのではなく、その背景にある現実を理解し、もし名乗り出てくれた医師には感謝の気持ちを持つことが、健全な医療支援の環境づくりに繋がるでしょう。


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