岡山地区の普通・快速列車では、通勤・通学時間帯の混雑対策と、中長距離利用者の快適性をどう両立させるかが重要なテーマになります。そこで考えられるのが、京阪神地区などで使われる207系・321系・323系のようなロングシート中心の通勤形車両を増やす考え方です。
ロングシート車は立席スペースを確保しやすく、混雑時の乗り降りにも向いています。一方、岡山地区には長距離を乗り通す利用者も多く、快速マリンライナーのように観光・都市間輸送を担う列車ではクロスシートにも大きな意味があります。単純に「全部ロングシートにすれば便利」とは言い切れません。
この記事では、207系・321系・323系タイプの車両を岡山地区へ導入した場合を仮定し、混雑、座席、乗降時間、メンテナンス、マリンライナーの性格という観点からメリットとデメリットを整理します。
207系・321系・323系型の車両は混雑に強い
207系や321系はJR西日本が通勤形電車として使用している車両です。JR西日本が公表している車両データでは、代表的な7両編成の場合、207系は編成総定員1,089人・座席定員374人、321系は編成総定員1,065人・座席定員344人とされています。[参照]
323系も大阪環状線・JRゆめ咲線向けの通勤形車両で、2018年公表のJR西日本資料では8両編成で総定員1,197人、座席定員372人とされています。つまり、こうした車両は座れる人数だけを最大化するのではなく、立って乗れるスペースを広く確保して大量輸送に対応する設計になっています。
朝夕の岡山駅周辺のように短時間で多数の乗客が乗り降りする場面では、この思想はかなり合理的です。座席数を多少減らしても通路やドア付近に余裕が生まれれば、車内の奥まで移動しやすくなり、ドア付近だけに乗客が集中する現象を軽減できる可能性があります。
ロングシート化で乗り降りはしやすくなる
転換クロスシートでは座席が進行方向を向くため長時間の乗車には快適ですが、座席が車内中央方向へ張り出します。そのため、混雑時には通路が比較的狭くなり、立っている乗客と降車する乗客がぶつかりやすくなります。
一方、ロングシートは座席を車体側面に沿って配置します。中央部分を広く使えるので、乗客がドアから車内奥へ移動しやすいことがメリットです。特に大きな荷物、ベビーカーなどを持った利用者がいるときには、床面積の広さが使いやすさにつながります。
例えば岡山駅で大量に乗車し、倉敷駅で大量に降車するような列車を考えると、乗車時間そのものはそれほど長くありません。このような短距離・大量輸送では、座席の向きより乗降のしやすさを優先した車内設計に合理性があります。
ただし「ロングシート=輸送力が必ず大幅アップ」ではない
注意したいのは、車両形式だけで輸送力が決まるわけではないことです。編成両数、車体長、ドア数、座席配置、運転本数、ホームの長さなどを合わせて考える必要があります。
例えばJR西日本の公表資料では、マリンライナー用223系5000番台の代表的な2両編成は総定員256人、座席定員120人です。一方、321系は7両編成で1,065人なので、単純な定員比較をすると321系が圧倒的に多く見えますが、これは編成両数そのものが違うため、その数字だけでは比較できません。[参照]
実際に岡山地区へ通勤形車両を投入するなら、同じ編成長・同じ両数にそろえたうえで「1両当たりの定員」「座席数」「ドア数」「停車時間」を比較する必要があります。したがって、ロングシート化による最大の利点は単純な定員増加というより、混雑時に車内空間を効率的に使いやすくなることと考えるほうが適切です。
マリンライナーの自由席までロングシート化する場合は事情が違う
快速マリンライナーは一般的な都市圏の通勤電車とは性格が異なります。JR四国によると、マリンライナーは岡山と高松を結び、最高速度130km/hで両都市間を平均約55分で結ぶ列車として設計されています。グリーン車や指定席も用意されており、瀬戸大橋を渡る都市間快速としての役割を持っています。[参照]
約1時間乗車する利用者にとって、進行方向を向いて座れるクロスシートは大きなメリットです。特に岡山~高松を乗り通す場合、通勤形電車のロングシートよりクロスシートを好む利用者は少なくないでしょう。
さらに瀬戸大橋線は生活路線であると同時に観光ルートでもあります。車窓を楽しむという観点でもクロスシートとの相性が良いため、マリンライナーの自由席を全面的にロングシートへ変更すると、混雑対応力と引き換えに都市間列車としての快適性を下げる可能性があります。
岡山近郊の普通列車ならロングシートとの相性は良い
一方、岡山駅を中心とする近距離普通列車については事情が変わります。通勤・通学客が集中し、短い区間で乗客が頻繁に入れ替わる列車なら、ロングシート車の利点を生かしやすくなります。
実際、JR西日本が岡山・備後エリアへ投入した227系「Urara」にはロングシート部分があります。JR西日本が公表した車内イメージでも、ロングシートを採用した区画が確認できます。岡山地区の新型車両自体が、従来の「すべてをクロスシートにする」という考え方ではなく、利用状況に合わせた座席配置を採用していることがポイントです。[参照]
つまり岡山地区では、207系や321系そのものを転属させるかどうかとは別に、通勤形車両の考え方を部分的に取り入れることには十分な合理性があるといえます。
転換クロスシートをなくせばメンテナンスは楽になる?
構造だけを比較すれば、固定式のロングシートは転換機構を持つクロスシートよりシンプルです。転換クロスシートには背もたれを動かす機構や可動部分が存在するため、固定座席ではそうした機構そのものが不要になります。
その意味では、可動部分を減らすことで点検・整備対象を減らせる可能性があります。ただし、鉄道車両全体の保守費用に占める座席転換機構の割合がどの程度なのかについて、公表資料なしに「大幅なコスト削減になる」と断定することはできません。
車両のメンテナンスには台車、ブレーキ、モーター、ドア、空調、制御装置、安全装置など多数の設備が関係します。そのため、座席転換をなくすことによる整備上のメリットは期待できても、それだけを目的に車両をロングシート化するほどの効果があるかは別問題として考える必要があります。
207系・321系・323系をそのまま岡山へ持ってくればよいわけではない
さらに重要なのが車両性能です。JR西日本の資料では207系・321系の最高速度は120km/h、323系は100km/hです。一方、マリンライナー用223系5000番台は130km/hとなっています。[参照]
特に323系をマリンライナーの代替車として考える場合、現在の列車と同じダイヤをそのまま維持できるとは限りません。加速性能、最高速度、編成構成、保安装置、運用条件などを含めた検討が必要になります。
そのため現実的には「207系・321系・323系を岡山へ大量転属させる」という発想よりも、それらの車両が持つ広い立席スペースや乗降性の考え方を岡山地区向け車両へ取り入れるほうが合理的です。
混雑対策と着席サービスを両立する方法もある
鉄道車両の座席配置は、ロングシートかクロスシートかの二択である必要はありません。利用区間の特徴によって両方を使い分ける方法があります。
例えば岡山近郊の普通列車ではロングシートの割合を高め、乗降性を重視する一方、マリンライナーでは自由席のクロスシートを一定数維持する方法です。さらに混雑しやすい車両だけ立席スペースを広げるという設計も考えられます。
マリンライナーにはもともと自由席だけでなく指定席・グリーン席があります。そのため、仮に将来的に自由席の一部で混雑対応を強化するとしても、長距離利用者向けの着席サービスを別途確保するという考え方は可能です。
まとめ:岡山近郊では有効だが、マリンライナーは別に考える必要がある
岡山地区の普通列車を207系・321系・323系のようなロングシート中心の通勤形車両に近づければ、朝夕の混雑時における立席スペース、車内移動、乗り降りのしやすさは改善する可能性があります。特に短距離利用者の多い岡山近郊では相性の良い考え方です。
一方、ロングシート化すれば座席定員が減りやすく、長距離利用者の快適性も低下します。約1時間をかけて岡山~高松を結ぶマリンライナーでは、クロスシートが都市間輸送・観光輸送のサービス価値になっているため、自由席を含めた全面的な通勤形化にはデメリットもあります。
また、座席転換機構をなくせば構造を簡素化できるものの、それだけで車両全体の維持費が大幅に下がるとは限りません。岡山地区では「全部ロングシート」「全部クロスシート」と一律に決めるより、短距離・混雑区間は乗降性を重視し、長距離・快速列車は着席快適性を重視するという使い分けが、利用者にとって最もバランスの取れた方向性と考えられます。


コメント