中国本土では、一般的なインターネット回線からYouTubeを通常どおり利用できない状態が続いています。それにもかかわらず、中国のホテルや観光関連施設の公式サイトを見ると、YouTubeチャンネルへのリンクやYouTube動画が掲載されていることがあります。
一見すると矛盾しているように見えますが、「中国本土の一般利用者がYouTubeへアクセスしにくいこと」と「中国にあるホテルが海外向けYouTubeチャンネルを運営していること」は別の問題です。
ホテル自身が中国国内の一般回線から直接投稿しているとは限りません。海外拠点の担当者、ホテルチェーンのグローバル本部、海外の広告会社などがチャンネルを管理しているケースも考えられます。公式サイトにYouTubeへのリンクがあるだけでは、投稿場所や投稿方法までは判断できません。
中国本土ではYouTubeへのアクセスが制限されている
中国ではインターネット上のサービスへのアクセスが管理されており、Google系サービスを含む海外サービスの一部は中国本土の一般的なインターネット環境から利用できません。YouTubeも代表的なサービスの一つです。
GoogleはTransparency Reportで、各国・地域からGoogle製品へのアクセス状況や通信障害などを確認できる情報を公開しています。[参照:Google Transparency Report]
ただし、「中国でYouTubeが禁止されている」という表現から、中国に関係する企業や組織が世界中のどこからもYouTubeを利用できないと考えるのは正確ではありません。重要なのは中国本土からの一般的なアクセスが制限されているという点です。
中国のホテルでも海外からYouTubeを運営できる
ホテルが中国国内にあるからといって、そのホテルのWebサイトやSNSを中国国内だけで管理する必要はありません。特に海外から宿泊客を集めるホテルでは、Webマーケティングを海外の担当者や代理店が行うことがあります。
例えば、中国のホテルが日本、シンガポール、香港、欧米などにあるマーケティング会社へ海外向けプロモーションを委託し、その会社がYouTubeへ動画をアップロードすることは技術的に可能です。
国際的なホテルチェーンならさらに分かりやすく、中国国内のホテルであってもブランド本部が海外にあり、世界共通のWebサイトやSNSアカウントを本部側で管理している場合があります。この場合、ホテル所在地とYouTubeアカウントの管理場所は一致しません。
公式サイトにYouTubeがある=中国国内から投稿した証拠ではない
ここは特に誤解しやすいポイントです。中国のホテルの公式ホームページにYouTube動画やYouTubeへのリンクが掲載されていても、それだけではホテルスタッフが中国本土の一般回線を使ってYouTubeへ投稿した証拠にはなりません。
Webサイトには単純にYouTube動画のURLや埋め込みコードを登録できます。Webサイト自体の管理者とYouTubeチャンネルの管理者が別人ということも珍しくありません。
例えばホテルの現地スタッフが客室やレストランの映像素材を制作し、それを海外のマーケティング担当者へ送り、海外担当者がYouTubeへアップロードする運用も可能です。視聴者から見れば「中国のホテルが投稿している」ように見えますが、実際のアップロード地点は中国国外かもしれません。
中国国内向けと海外向けでSNSを使い分けることもある
ホテルにとってSNSは宿泊客を集める広告媒体です。そのため、ターゲットとする国・地域に応じて利用するサービスを変えることには合理性があります。
中国国内の顧客を集める場合にはWeChat、Douyin、小紅書(RED)など中国で広く利用されているサービスが重要になります。一方、日本や欧米など海外の旅行者をターゲットにする場合にはYouTube、Instagram、Facebookなどが有力な宣伝媒体になります。
つまり一つのホテルが「中国国内向けSNS」と「海外向けSNS」の両方を運営していても不思議ではありません。海外の旅行者はホテルを予約する前に動画で客室、朝食、プール、周辺環境などを確認することがあるため、YouTubeは海外向け観光マーケティングとの相性がよい媒体です。
中国企業や中国関連組織のYouTubeチャンネル自体は珍しくない
実際、中国に関係する企業・メディア・観光関連組織などが海外向けSNSを利用すること自体は不思議な現象ではありません。中国本土から一般ユーザーがアクセスできるかどうかと、海外向け情報発信を行うかどうかは分けて考える必要があります。
GoogleのYouTubeに関するTransparency Reportでも、動画のアップロード元の地域について、アップロード時のIPアドレスを基準として扱っていることが説明されています。またVPNやプロキシを利用した場合にはIPアドレスと実際の所在地が一致しないことも明記されています。[参照:Google YouTube Community Guidelines enforcement]
したがってチャンネルに「中国のホテル名」が表示されていることから、動画がどの国・地域からアップロードされたのかを外部の視聴者が断定することはできません。
香港・マカオと中国本土はインターネット環境を同一視しない
もう一つ確認したいのがホテルの所在地です。「中国のホテル」と紹介されていても、所在地が香港やマカオの場合があります。中国本土と香港・マカオのインターネット環境を単純に同一視することはできません。
例えば香港政府観光局は、海外向け情報発信でYouTubeを含む複数の国際的SNSを公式に活用しています。その一方でDouyin、小紅書、Weiboなども利用しており、対象市場に応じてプラットフォームを使い分けています。[参照:香港政府観光局 Annual Report]
そのためホテルの住所が中国本土なのか、香港・マカオなのかを確認するだけでも事情が変わってきます。
ホテルのホームページで動画が再生できない場合がある理由
海外からホテルのホームページを見ると埋め込まれたYouTube動画が普通に再生できても、中国本土から同じページを開くと動画部分だけ正常に表示されないことがあります。
これはホテルのWebサイトそのものと、埋め込まれているYouTubeコンテンツが別々のサーバー・サービスから提供されているためです。ホテルのHTMLページへアクセスできても、そのページが読み込もうとするYouTube側への通信が制限されれば、動画だけ表示できないという状態が起こり得ます。
つまり「中国国内からホテルのホームページが見えるのだから、埋め込まれたYouTubeも見えるはず」とは限りません。Webページ本体と外部動画サービスは分けて考える必要があります。
VPNを使っていると決めつけることはできない
中国から海外サービスへアクセスする話題ではVPNがよく登場します。しかし、中国のホテルにYouTubeチャンネルがあるという事実だけを根拠に「ホテルがVPNを使って投稿している」と断定することはできません。
海外にWeb担当者がいる、海外の広告代理店へ委託している、グローバルホテルチェーン本部が管理しているなど、VPNを前提にしなくても説明できる方法が複数あるためです。
外部から確認できるのは基本的に「そのホテル名義のYouTubeチャンネルや動画が存在する」というところまでです。誰が、どこから、どのネットワークを利用して投稿したかは、ホテル側が運営体制を公表していなければ判断できません。
まとめ:中国でYouTubeが制限されていてもホテルが海外向けに投稿することは矛盾しない
中国本土でYouTubeへの一般的なアクセスが制限されていることと、中国にあるホテルのYouTubeチャンネルが存在することは矛盾しません。ホテル所在地とSNSの運営場所は別だからです。
中国のホテルでも、海外拠点の担当者、海外の広告代理店、グローバルホテルチェーンの本部などを通じてYouTubeを運営できます。また中国国内向けにはWeChatやDouyin、小紅書などを使い、海外旅行者向けにはYouTubeなどを使うというマーケティング上の使い分けも考えられます。
したがって、中国のホテル公式サイトでYouTubeを見つけても「中国国内から普通にYouTubeへアクセスして投稿している」とは限りません。ホテルの所在地、運営会社、ホテルチェーン、YouTubeチャンネルの管理主体を確認すると、その仕組みをより正確に理解できます。


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