ベトナムはなぜ信号付き横断歩道が少なく見える?バイク社会・道路事情・歩行者ルールから理由を解説

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ベトナムのハノイやホーチミン市を歩くと、日本の都市部に比べて「歩行者用信号のある横断歩道が少ない」「大きな道路なのに信号なしで渡る場所がある」と感じることがあります。実際にはベトナムにも歩行者用信号、横断歩道、歩道橋、地下道はあり、現在の交通法でも歩行者の横断方法や車両側の義務が定められています。

一方で、ベトナムの都市交通は長年、非常に多数のバイクを中心に発達してきたこと、道路空間が限られていること、信号を主に大きな交差点へ設置してきたことなどから、日本のように歩行者の横断を細かく信号で分離する道路環境とは異なります。

なお、「ベトナムには日本より信号付き横断歩道が何%少ない」という全国横断的な公的統計があるわけではありません。都市や地区によって状況は大きく違うため、本記事では「なぜ旅行者には少なく見えやすいのか」を、交通構造や法制度から整理します。

ベトナムにも横断歩道と歩行者用信号はある

まず押さえておきたいのは、ベトナムに歩行者保護の制度が存在しないわけではないという点です。現在のベトナムの道路交通秩序・安全法では、歩行者は歩道や路肩などを利用し、道路を横断するときは、信号、横断歩道、歩道橋、地下道がある場所ではそれらを利用することが定められています。

また、そのような設備がない場所についても横断そのものが一律禁止されているわけではありません。周囲の車両を確認し、安全を確保したうえで横断し、その際には手で合図をすることが定められています。[参照] ベトナム道路交通秩序・安全法

つまり法制度そのものが「信号のない道路を歩行者が絶対に渡ってはいけない」という設計ではありません。この点は、日本の都市部で信号付き横断歩道を探して渡ることに慣れている旅行者にとって、大きな違いに感じられます。

最大の背景は圧倒的なバイク中心の交通構造

ベトナムの都市交通を理解するうえで重要なのが、二輪車の多さです。世界銀行によると、2022年のベトナムでは登録された二輪車が約7,216万台に達し、登録車両全体のおよそ94%を占めていました。世界銀行は、二輪車が2035年まで主要な交通手段であり続けると予測しています。[参照] 世界銀行「Taking Stock: Viet Nam Economic Update」

ハノイでも歴史的にバイク依存度は高く、世界銀行のハノイ都市交通事業に関する資料では、2000年代半ばの時点で約200万台のバイクがあり、市内移動の約60%を占めていたとされています。[参照] 世界銀行「Hanoi Urban Transport Development Project」

日本の都市交通は鉄道駅と徒歩移動を中心に発達した地域が多いのに対し、ベトナムでは「玄関から目的地の近くまでバイクで移動する」交通文化が長く中心でした。そのため、道路整備も歩行者の連続的な移動だけを最優先して発達してきたわけではありません。

道路が狭く、都市密度が高いため設備を増やしにくい

もう一つの背景が道路空間です。世界銀行は、ハノイやホーチミン市について人口密度が非常に高い一方、道路ネットワークが都市面積に占める割合は7%未満と非常に小さいと指摘しています。さらに新しい道路を造ったり道路を拡幅したりする場合、土地取得や移転費用が極めて大きくなります。[参照] 世界銀行「Developing Networked Mobility in Vietnam」

古くから形成された市街地では、店舗、住宅、路地、幹線道路が密集しています。日本のように道路を拡幅して広い歩道を作り、中央分離帯を設け、数百メートルごとに信号付き横断歩道を整備するには大規模な用地取得が必要になることがあります。

そのため、既存道路では信号設備を大きな交差点に集中させ、それ以外では横断歩道だけを設けたり、歩道橋や地下道を利用したり、場合によっては歩行者自身が安全を確認して横断したりする構造が残っています。

日本とベトナムでは「道路を渡る仕組み」の考え方が少し違う

日本の都市では、交差点だけでなく学校、駅、商業施設の前などにも押しボタン式信号を含む歩行者用信号が設置されています。そのため「横断歩道があれば信号もある」という印象を持ちやすくなります。

ベトナムでは、信号がある交差点では歩行者用信号が設置されている場所も多いものの、信号がない場所での横断も法制度上想定されています。現在の法律では、横断施設がない場合、歩行者は車両を観察し、安全な場合に横断することになっています。

さらに車両側についても、横断歩道がある場所や実際に歩行者が横断している場所では、運転者が安全確保のため減速または停止することが規定されています。[参照] ベトナム道路交通秩序・安全法

信号を増やせばすべて解決するわけでもない

信号付き横断歩道を増やせば歩行者が安全になる面はありますが、交通量の非常に多い都市では、信号を短い間隔で増やすと車両交通が頻繁に停止し、交差点間に渋滞が連続することがあります。

特にベトナムでは大量のバイク、自動車、バス、自転車などが同じ道路空間を使っています。世界銀行は、ハノイやホーチミン市では高い人口密度と限られた道路面積の中で、バイク、自動車、バスが道路空間を争い、すでに渋滞が深刻であると指摘しています。[参照] 世界銀行

そのため道路安全対策は、単に信号機を増設するだけではなく、歩道の改善、公共交通の整備、速度管理、歩道橋や地下道、交差点設計、交通ルールの遵守などを組み合わせる必要があります。

「横断歩道があっても車が止まらない」と感じる理由

旅行者からすると、信号なしの横断歩道があってもバイクが連続して通過するため、「横断歩道として機能していない」と感じることがあります。しかし、現在の法律では車両側にも歩行者への配慮義務があります。

具体的には、横断歩道など歩行者用の道路標示がある場所や、実際に歩行者が道路を横断している場所では、運転者は周囲を観察し、減速または停止して安全を確保する必要があります。また青信号であっても歩行者が車道を横断中なら、車両には減速または道を譲ることが求められます。[参照] ベトナム道路交通秩序・安全法

したがって、「バイクが止まってくれないことがあるから、歩行者に優先ルールがない」というわけではありません。法律上のルールと、実際の交通環境や遵守状況は分けて考える必要があります。

観光地では道路の見た目以上に交通量が多いことがある

ハノイ旧市街やホーチミン市中心部では、道路そのものはそれほど広くなくても非常に多くの二輪車が流れています。旅行者にとっては「この程度の幅なら普通に渡れそう」と感じる道路でも、途切れなくバイクが来ることがあります。

一方、日本では同程度の交通量があれば大きな交差点や信号で車両をまとめて停止させ、その時間に歩行者を渡らせる設計が多く見られます。この違いによって、ベトナムでは信号付き横断歩道がより少なく感じられます。

また、日本人旅行者が訪れる旧市街や市場周辺は、現代的な新興地区とは道路設計が異なります。ベトナム全体を観光地の道路だけで判断しないことも重要です。

ベトナムでは歩行者用インフラも改善が進められている

ベトナムの都市交通が今後もバイクだけを前提としているわけではありません。世界銀行はベトナムに対し、単に自動車やバイクを速く移動させる交通政策から、人そのものの移動を重視する多様な交通体系へ転換する必要があると指摘しています。

具体的には、公共交通へのアクセス、徒歩、自転車、バスや都市鉄道との接続などを含めた「マルチモーダル」な交通環境を整えることが重要とされています。[参照] 世界銀行「Developing Networked Mobility in Vietnam」

ハノイやホーチミン市では都市鉄道などの公共交通整備も進んでいるため、駅周辺を含め、将来的には歩行者を前提とした道路環境の重要性がさらに高くなると考えられます。

ベトナムで道路を渡るときの旅行者向け注意点

現地でよく語られる「一定の速度でゆっくり歩けばバイクが避けてくれる」という方法を、どの道路でも安全な横断方法として考えるのは危険です。バイクだけでなく自動車やバスも走っており、旅行者が交通の速度や車間を正確に判断できるとは限りません。

横断するときは、近くに信号付き横断歩道、通常の横断歩道、歩道橋、地下道があればまずそれを利用するのが基本です。現行法でも、そのような横断施設がある場所では歩行者が利用することになっています。

設備がない場所では、道路の両方向を十分確認し、安全を確保してから横断します。複数車線の幹線道路、夜間、雨天、見通しの悪い場所では無理に横断せず、安全な横断地点まで移動するほうが賢明です。

日本とベトナムの違いを簡単に整理

項目 日本の都市部で多い傾向 ベトナムの都市部で見られる傾向
主な都市交通 鉄道・徒歩・自動車など 二輪車の比重が非常に大きい
歩行者用信号 交差点以外にも設置例が多い 大きな交差点を中心に見られる
信号なしの横断 都市部では比較的少ない 横断施設のない場所を渡るケースも法制度上想定
道路空間 歩道整備された地域が多い 旧市街などでは道路空間が限られる
交通の特徴 自動車交通を信号で区切る場面が多い 多数の二輪車が連続的に流れる場面が多い

もちろんこれは大まかな傾向であり、日本にも信号のない横断場所はありますし、ベトナムにも歩行者用信号が充実した道路があります。都市、地区、道路の新旧によって大きく異なります。

交通安全上は歩行者・二輪車の保護が重要な課題

ベトナムだけに限った問題ではありませんが、歩行者や二輪車利用者は交通事故で大きなリスクを負う道路利用者です。WHOの「Global Status Report on Road Safety 2023」では、世界の交通死亡者の半数以上を歩行者、自転車利用者、二輪車利用者が占め、とりわけ低・中所得国で重大な課題になっていると報告されています。[参照] WHO「Global status report on road safety 2023」

WHOはベトナムについても国別の道路安全プロフィールを公開しており、交通死亡・傷害の削減に向けた継続的な対策が必要とされています。[参照] WHO「Road safety Viet Nam 2023 country profile」

そのため、信号付き横断歩道の数だけではなく、速度管理、歩道の確保、横断施設の配置、運転者の譲歩行動、公共交通への転換などを総合的に見る必要があります。

まとめ|バイク中心の都市交通と道路構造の違いで信号付き横断歩道が少なく見える

ベトナムの都市で日本より信号付き横断歩道が少なく感じられる背景には、単に「交通ルールが整備されていないから」という一つの理由があるわけではありません。長年のバイク中心の交通構造、高密度な市街地と限られた道路空間、信号を大きな交差点へ配置する道路設計、信号のない場所での横断も想定した法制度などが組み合わさっています。

特にベトナムでは二輪車が圧倒的に多く、世界銀行によれば2022年時点で登録車両の約94%が二輪車でした。この交通構造そのものが、日本の鉄道・徒歩移動を前提とした都市とは大きく異なります。[参照] 世界銀行

ただし、ベトナムにも歩行者用信号や横断歩道は存在し、法律でも歩行者と車両双方に安全確保のルールがあります。信号や横断歩道、歩道橋、地下道があれば歩行者はそれらを利用し、車両側にも歩行者が横断する場面で減速・停止して安全を確保する義務があります。

旅行者としては、「現地の人が渡っているから自分も同じように車列へ入れば大丈夫」と考えず、できるだけ信号付き横断歩道など安全な設備を利用することが重要です。ベトナムの道路が独特に見えるのは、交通ルールが存在しないからではなく、日本とは都市交通が発達してきた経緯と道路の使われ方が大きく異なるため、と理解すると分かりやすいでしょう。

※本記事は2026年8月30日時点のベトナム道路交通秩序・安全法、世界銀行、WHOなどの公開資料をもとに一般的な都市交通事情を解説しています。交通設備や運用状況は都市・道路・地区によって異なります。実際の横断時には現地の信号、標識、警察官等の指示を優先してください。

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