西九州新幹線で佐賀県知事が「南回りルートは一考に値する」とした理由は?佐賀空港・佐賀駅・在来線問題を整理

鉄道、列車、駅

西九州新幹線の新鳥栖―武雄温泉間をめぐる議論では、佐賀駅を通るルートだけでなく、佐賀空港方面を経由する「南回りルート」が話題になったことがあります。2023年、佐賀県の山口祥義知事が南側のルートについて「一考に値する」という趣旨の発言をしたため、「空港直結が技術的に難しいなら、なぜ南回りを検討するのか」と疑問に感じる人もいるでしょう。

この発言を理解するポイントは、佐賀県が単に「新幹線を佐賀駅から外したい」と考えていたわけでも、「佐賀駅を通らなければ在来線特急がそのまま残る」と考えていたわけでもないことです。県は新幹線整備によって佐賀県が何を得て何を失うのか、佐賀空港や道路を含めた交通体系、財政負担、在来線の将来まで含めて議論する姿勢を示していました。

もともとの「南回り」は佐賀空港と新幹線を直結する構想だった

国と佐賀県の「幅広い協議」で検討された南回りルートは、筑後船小屋駅方面から佐賀空港を経由して武雄温泉方面へ向かう考え方です。2021年の佐賀県資料では「佐賀空港を経由するルート」とされ、筑後船小屋駅を経由して佐賀空港と新幹線駅を直結させる案として示されていました。[参照]

しかし佐賀空港周辺は軟弱地盤など施工上の課題があります。2023年2月の協議では国土交通省が佐賀空港直結ルートについて検討結果を説明し、橋りょうや沈埋トンネルは漁業への影響などから適用困難、シールドトンネルについても不等沈下による安全上の問題から現実的な選択肢になり得ないとの見解を示しました。[参照]

ここだけを見ると「空港直結が無理なら南回りは終わりでは」と考えたくなります。しかし、その後に山口知事が言及した「南側」は、必ずしも空港ターミナル直下へ新幹線駅を造る案だけを意味していませんでした。

「一考に値する」は空港直結案への固執ではなかった

重要なのが2023年10月6日の佐賀県知事定例記者会見です。山口知事は、空港に「べたづけ」するのではなく、もう少し幅広く南側を展開し、空港や道路と連携させる考えについて「一考に値する意義深いもの」という趣旨で説明しています。[参照]

つまり「空港ターミナルに新幹線駅を直結できないなら南回りに意味がない」という二者択一ではありません。空港に完全直結しなくても、南側に新幹線を通し、道路交通などと組み合わせて佐賀空港へのアクセスを改善する余地があるのではないか、という発想まで含めて検討対象にしていたわけです。

知事は同じ会見で、南側ルートにも財政負担や在来線の整理という問題が残ることを明確に認めています。そのうえで、それでも協議の場で検討する価値があるという立場でした。「南回りなら問題が全部解決する」と主張していたわけではない点が重要です。

なぜ佐賀駅ルートをすぐ受け入れなかったのか

背景には西九州新幹線特有の経緯があります。新鳥栖―武雄温泉間について佐賀県は、もともと在来線を利用するという合意だったとの立場を維持しています。その後、フリーゲージトレインの導入が事実上断念され、国側がフル規格による整備を軸に議論するようになったため、佐賀県側から見れば前提条件が大きく変わりました。

国は佐賀駅を経由するルートについて、利用者の利便性や既存交通との接続などから効果が高いという立場です。実際、2023年12月の国と佐賀県の協議でも、国側は佐賀駅を通るルートが最も効果が高いという考えを示しています。[参照]

一方の佐賀県は、佐賀駅を通るフル規格にした場合の県負担、既存の在来線や特急への影響なども含めて考える必要があると主張してきました。そのため「佐賀駅を通るのが鉄道利用者には便利だから、それで決定」という単純な議論にはならなかったのです。

南回りなら在来線特急が減らないと考えていたのか

ここは誤解しやすいところです。山口知事自身が南側ルートについて「在来線の整理の問題は残る」と発言しているため、「佐賀駅を新幹線が通らなければ在来線特急は今までどおり維持される」と単純に考えていたとは読み取れません。

新幹線のルートと在来線の運行体系は関係しますが、新幹線駅を佐賀駅から外せば特急が自動的に現状維持されるという制度ではありません。新幹線開業後に在来線をどのようなダイヤ・列車体系で運行するかは、JR九州や関係自治体などとの調整が必要になります。

また、2026年になっても在来線の利便性は主要論点の一つです。国側も並行在来線の分離を前提としないというJR九州側の姿勢に言及する一方、新幹線整備後の在来線の利便性がどうなるかは重要な課題として扱っています。したがって「佐賀駅ルートか南回りか」と「特急が何本残るか」は、完全に同じ問題ではありません。

佐賀県が南回りに見いだしたのは「新しい価値」を作れる可能性

佐賀県側の発言を追うと、一貫しているのは「フル規格を造るなら佐賀県や九州全体にどのような発展をもたらすのかを考えるべき」という視点です。2023年2月の国との協議でも、県側は技術論だけではなく、まず佐賀県の発展や九州の将来展望にどうつながるのかという大きな視点を示すよう求めていました。[参照]

佐賀駅ルートは既存の鉄道ネットワークとの接続に優れています。一方、南側を通すなら、佐賀空港や道路交通と新幹線を組み合わせ、新しい広域交通ネットワークを形成できる可能性があります。県側にとって南回りを検討する意味は、この「新しい価値を生み出せるか」という部分にありました。

ただし、これは南回りが佐賀駅ルートより優れていることを意味しません。距離、建設費、需要、施工条件、駅へのアクセスなどを考えれば南回りにも大きな課題があります。実際、国は佐賀駅を経由して既存の鉄道・バスなどと接続し、ネットワーク効果を高めることが合理的との立場を示しています。

2026年現在も佐賀駅ルートで決着したわけではない

2026年時点でも新鳥栖―武雄温泉間の整備方針は最終決着していません。佐賀県は、新鳥栖―武雄温泉間については在来線を利用するという合意しかなく、フル規格を整備する場合には財政負担や在来線などの課題を解決し、新たな合意形成が必要という立場を取っています。[参照]

一方、国側は現在も佐賀駅を通過するルートが合理的との考えを示しています。2026年5月にも国土交通省側は、既存駅から離れた新幹線駅では利便性に課題が生じる例があるとして、現駅に接続してネットワーク効果を最大化することが適切との考えを説明しています。

したがって南回り案は「佐賀県が採用を決めたルート」ではなく、県が可能性を狭めず協議したいと考えている選択肢の一つ、と理解するのが適切です。

まとめ:南回り発言は「空港直結できるか」だけの話ではない

佐賀県知事が2023年に南回りルートを「一考に値する」とした理由は、佐賀空港ターミナルへの新幹線直結に固執したからではありません。空港への直接乗り入れが難しくても、佐賀県南部を通るルートと佐賀空港・道路を連携させ、県や九州全体に新しい交通上の価値を作れる可能性があるなら検討する価値があるという考えでした。

また「佐賀駅を外せば在来線特急が減らない」と楽観視していたと見るのも適切ではありません。知事自身が南側ルートについても財政負担と在来線の整理が課題として残ると明言しています。

結局、西九州新幹線をめぐる国と佐賀県の考え方の違いは、単なる「佐賀駅か佐賀空港か」という駅位置の争いではありません。既存交通との接続を重視する国に対し、佐賀県はこれまでの合意やフリーゲージトレイン断念の経緯、県の財政負担、在来線、佐賀空港、そして将来の地域発展まで含めて議論することを求めています。この背景を押さえると、「南回りも一考に値する」という発言の意図が理解しやすくなります。

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