追い越しのためなら制限速度を超えてもいい?80km/h制限で遅い車を抜くときの道路交通法を解説

車、高速道路

複数車線の道路を走っていると、左側の走行車線をかなり遅い速度で走る車に追いつくことがあります。そのとき「追い越すためには一時的に制限速度を超えてもよいのか」「制限速度を守ったままでは追い越せないのでは」と疑問に感じることがあります。

結論からいうと、追い越し中であっても道路の最高速度を超えることはできません。「追い越す瞬間だけ速度超過が許される」という例外は、道路交通法にはありません。

ただし、80km/h制限の道路を前車が40km/hで走っているのであれば、80km/hを超えなくても十分に追い越すことができます。例えば70km/hで追い越せば前車との速度差は30km/h、80km/hなら40km/hあります。「40km/hの車を抜くには80km/h以上が必要」というわけではありません。

この記事では、追い越しと最高速度の関係、追越車線の正しい使い方、前車が制限速度いっぱいで走っている場合にどうするべきか、高速道路を40km/hで走る車に別の違反が成立する可能性まで、道路交通法と警察庁の案内をもとに整理します。

追い越し中でも最高速度を超えてはいけない

道路交通法第22条では、車両は道路標識などで指定された最高速度を超えて進行してはならないと定められています。[参照:e-Gov法令検索・道路交通法]

この最高速度には、「追い越し中だけは除く」という規定はありません。

例えば最高速度80km/hの道路で、追い越しの際に90km/hまで加速すれば、追い越し目的であっても速度超過になる可能性があります。

「安全のため短時間で追い越したかった」という理由があっても、制限速度を超えてよいことにはなりません。

40km/hの車なら80km/hを超えなくても追い越せる

「80km/h制限の道路で40km/hの車を抜くには、80km/h以上出さないと抜けない」という考え方には、速度差の点で誤解があります。

追い越しに必要なのは、前車より速く走ることです。前車が40km/hなら、自車が60km/h、70km/h、80km/hのいずれでも速度差があります。

前車の速度 追越車の速度 速度差
40km/h 60km/h 20km/h
40km/h 70km/h 30km/h
40km/h 80km/h 40km/h

例えば80km/hで進行すれば、40km/hの前車に対して1時間あたり40km、1秒あたり約11mずつ距離を詰めていきます。

もちろん実際の追い越しでは、前車へ接近する距離、車線変更、車体長、安全な車間距離を確保して戻る距離が必要です。それでも40km/hもの速度差があれば、80km/hを超えなくても追い越しは十分可能です。

制限速度いっぱいで走る車は合法的に追い越せないこともある

では、最高速度80km/hの道路で前車が79~80km/hで走っていた場合はどうでしょうか。

自車も最高80km/hまでしか出せないため、ほとんど速度差を作れません。短時間で追い越そうとして85km/hや90km/hまで加速すれば、その時点で速度違反になる可能性があります。

この場合は、無理に追い越さず適切な車間距離を保って走るのが基本です。

「追越車線があるから必ず追い越せる」のではありません。追い越しは、速度制限や安全確認などほかの交通ルールを守ったうえで可能な場合に行うものです。

追越車線へ移れば制限速度が上がるわけではない

高速道路などの右側車線は一般に「追越車線」と呼ばれますが、追越車線へ移動したからといって、その車線だけ最高速度が高くなるわけではありません。

例えば道路標識で区間全体が80km/h制限になっているなら、走行車線も追越車線も原則80km/hが最高速度です。

「左車線は80km/hまでだが、追越車線なら一時的に100km/hまで出してよい」というルールはありません。

警察庁も、高速道路では自分の車両、走行速度、交通規制、周囲の交通状況に応じて適切な通行帯を選び、交通ルールを守るよう案内しています。[参照:警察庁・高速道路]

追越車線は追い越しが終わったら戻るのが基本

道路交通法第20条では、車両通行帯が設けられた道路では原則として左側の通行帯を走行することが定められています。

そして追い越しをするときには、直近の右側の車両通行帯を利用できます。つまり、右側車線は基本的に追い越しなど必要な場合に使う車線です。[参照:道路交通法第20条]

警察庁も「追越車線を走行し続けても問題ない」という認識は誤りだと明確に案内し、追い越しが終わったら速やかに走行車線へ戻るよう説明しています。[参照:警察庁]

したがって、追い越しが終わった後も理由なく右側車線を走り続けると、状況によっては通行帯違反となる可能性があります。

実際の追い越し手順を80km/h制限で考える

例えば2車線の80km/h制限道路で、左側車線を40km/hで走る車に追いついたとします。

まず十分な車間距離を保ち、右側の追越車線に後続車がいないことをミラーや目視で確認します。そのうえでウインカーを出して右側へ進路変更します。

追越車線では、制限速度80km/h以下の安全な速度で前車の右側を通過します。

前車より十分前へ出て、安全な車間距離を確保できたことを確認してから、ウインカーを出して左側の走行車線へ戻ります。

この一連の動作のどこにも「80km/hを超える必要」はありません。

追い越される側は追い越し中に加速してはいけない

追い越す側だけでなく、追い越される側にもルールがあります。

道路交通法第27条では、一定の場合、後続車に追いつかれた車両は、その車が追い越しを終えるまで速度を増してはならないと定めています。[参照:道路交通法第27条]

例えば40km/hで走っていた前車が、後続車が追い越しを始めた途端に70km/hまで加速するような行為は危険です。

警察庁の交通教則でも、追い越されるときは追い越しが終わるまで速度を上げないよう案内されています。[参照:警察庁・交通の方法に関する教則]

前車が40km/hでも追い越しを急ぐ必要はない

速度差が大きければ追い越し自体は可能ですが、いつでも追い越してよいわけではありません。

右側車線から高速で接近している車がいる場合や、車線変更禁止の道路標示がある場合、前方の見通しが悪い場合などは追い越しを待つ必要があります。

道路交通法第26条の2でも、進路変更によって後方車両の速度や方向を急に変更させるおそれがある場合には進路変更してはならないとされています。

つまり前車が40km/hだからといって、「遅いからすぐ右へ出てもよい」わけではありません。追い越しの可否と速度制限は別々に確認する必要があります。

高速自動車国道を40km/hで走っていたら前車側が違反になることもある

ここで重要なのが、質問の「80km/h制限の道路」が高速自動車国道なのか、一般道路・自動車専用道路なのかという違いです。

高速自動車国道の本線車道では、標識などで別の最低速度が指定されていない一般的な区間について、道路交通法第75条の4と道路交通法施行令第27条の3により、最低速度は50km/hとされています。[参照:道路交通法第75条の4][参照:道路交通法施行令第27条の3]

そのため、高速自動車国道の本線を特別な理由なく40km/hで走り続けている場合、前車側が最低速度違反になる可能性があります。

ただし、渋滞、事故、悪天候、故障など、危険を防止するためやむを得ず速度を落としている場合は別です。また、自動車専用道路のすべてに全国一律50km/hの最低速度が適用されるわけではないため、道路の種類や標識を確認する必要があります。

80km/h制限だから「必ず80km/hで走らなければならない」わけでもない

最高速度80km/hという表示は、「80km/hで走らなければならない」という意味ではありません。

あくまで「80km/hを超えてはいけない」という上限です。道路状況、天候、視界、交通量などに応じて、それより低い安全な速度で走ることは当然あります。

例えば大雨や濃霧で視界が悪ければ、80km/h制限でも50~60km/h程度まで速度を落とす必要が生じることがあります。

警察庁も、決められた最高速度の範囲内であっても、道路や交通、天候、視界などを考えて安全な速度で運転するよう求めています。[参照:警察庁]

「追い越しだから10km/hくらいオーバーしても大丈夫」は誤解

運転者の間では、「追い越すときだけなら多少の速度超過は仕方ない」「一瞬だけなら取り締まられない」といった話がされることがあります。

しかし、それは道路交通法上の正式なルールではありません。

仮に警察の速度取り締まりがどの程度の超過から行われることが多いかという実務上の話があったとしても、それと「法律上許されている速度」は別問題です。

法的な判断では、追い越し中であっても指定された最高速度が上限です。

前車が遅くてもあおり運転をしてはいけない

40km/hで走る車に追いつくと、早く追越車線へ移りたくなったり、前車に速度を上げてほしいと感じたりすることがあります。

しかし、車間距離を極端に詰めたり、パッシングやクラクションを繰り返したりして相手へ圧力をかけることは避けなければなりません。

まず十分な車間距離を保ち、追い越し可能な場所と状況になるまで待ち、安全を確認してから追い越します。

速度が遅いことと、後続車が危険な運転をしてよいことはまったく別の問題です。

追い越しと追い抜きは厳密には意味が違う

日常会話では「抜く」とひとまとめにされますが、道路交通法上の「追越し」には意味があります。

一般に、進路を変えて前方車両の側方を通過し、その車両の前方へ出る行為が追越しです。

例えば左車線を40km/hで走っている車がいて、自分が右側の車線へ移動してその前へ出るなら典型的な追越しになります。

道路交通法第28条では、他の車両を追い越す場合は原則としてその車両の右側を通行することが定められています。[参照:道路交通法第28条]

まとめ:80km/h制限なら追い越し中も上限は80km/h

80km/h制限の道路では、追い越しをする場合でも原則として80km/hを超えて走ることはできません。追越車線に移ったから、あるいは短時間で追い越すためだからという理由で速度超過が認められるルールはありません。

ただし、前車が40km/hで走っているのであれば、60km/hでも70km/hでも速度差があるため追い越すことはできます。80km/hであれば前車との速度差は40km/hになるため、「80km/h以上を出さなければ抜けない」ということにはなりません。

逆に前車が80km/h制限の道路をほぼ80km/hで走っている場合、合法的に大きな速度差を作ることはできません。そのときは無理に追い越さず、適切な車間距離を保って走るのが基本です。

また、追越車線は追い越しが終わったあとも走り続けるための車線ではありません。警察庁も、追い越しが終わったら速やかに走行車線へ戻るよう案内しています。[参照:警察庁]

なお、高速自動車国道の本線車道で、やむを得ない事情なく40km/hで走っている場合は、原則50km/hとされる最低速度に抵触する可能性があります。しかし前車側に問題があったとしても、後続車が最高速度を超えてよい理由にはなりません。「相手が遅いかどうか」と「自分が制限速度を守る義務」は別々のルールとして考えるのがポイントです。

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