1993年に放送されたTBSドラマ『高校教師』には動物園が登場する場面があり、第4話を見ていると、横になった象に飼育員が接近し、体の上に乗るような姿勢でほうき状の道具を使って体を掃いているように見えるシーンがあります。現在の感覚では「象の上に人が乗って大丈夫なのか」「これは普通の飼育なのか」と驚く光景です。
象の体をブラシなどでこすって清潔にしたり、皮膚の状態を確認したりすること自体は、飼育管理として不自然な行為ではありません。一方、飼育員が象と同じ空間へ入り、横になった象へ直接乗るほど接近する方法が、現在の動物園で一律に「通常の象飼育」とされているわけではありません。
象の飼育方法は時代や施設によって異なり、現在は動物福祉だけでなく飼育員の安全を重視した管理方法も発達しています。そのため、1990年代の映像を見る際には「象の体を手入れする行為」と「人が象へどのように接近するか」を分けて考えると理解しやすくなります。
象の体をブラシなどで掃除すること自体は珍しくない
象は野生では泥浴び、水浴び、砂浴びなどを行います。これらは象にとって自然な行動であり、皮膚の状態を保つことにも関係します。動物園でも水浴びや泥浴びなど、象が本来持つ行動を行える環境を整えることが重要視されています。
米国動物園水族館協会(AZA)が示す現在の象の適切な飼育に関する考え方でも、象がdusting(砂や土を体にかける行動)、mudding(泥を付ける行動)、wallowing(泥などに寝転ぶ行動)、bathing(水浴び)、swimming(水泳)といった自己管理行動を行えることが挙げられています。[参照:Association of Zoos and Aquariums]
飼育下ではそれに加えて、飼育員が象の皮膚や足などを観察し、必要なケアを行います。したがって、ドラマの場面で見える「ほうきのような道具で象の体をこする」という行為そのものは、象の身体管理という観点から考えれば特別に奇妙なものではありません。
横になった象を手入れすることにも意味がある
象のような大型動物では、体の状態を確認するために特定の姿勢を取ってもらうことがあります。現在の動物園でも、健康管理や獣医療を安全に行うため、象が自発的に一定の姿勢や動作を行うようトレーニングすることがあります。
例えば足を出す、耳を見せる、体の側面を近づけるなどの行動を覚えてもらえば、飼育員や獣医師が状態を確認しやすくなります。現在のAZAの方針でも、象が飼育管理や獣医療に必要なトレーニングへ自発的に参加できることが重視されています。[参照:AZA Elephant Strategy]
そのため「象が横になっていること」自体を異常な光景と考える必要はありません。ポイントは、その状態で飼育員が象とどの程度直接接触しているのか、そしてどのような安全管理方式を採用しているかです。
象の上に飼育員が乗ることは現在の標準的な方法とは言い切れない
映像で特に目を引くのは、ブラッシングそのものよりも「人が象の体の上へ乗っているように見える」という部分でしょう。象は非常に大きく力の強い動物であるため、飼育員との直接接触には重大な事故のリスクがあります。
象の飼育には歴史的に、人間が象と同じ空間に入り直接指示・接触する方法が用いられてきました。一方、現在では施設側と象側を柵や防護設備などで隔てた状態でケアを行う、いわゆるプロテクテッド・コンタクト(protected contact)という考え方も重要になっています。
したがって、1990年代のドラマ映像にあるような非常に近距離での直接的な接触を見て、「現在も全国の動物園で普通に行われている作業」と理解するのは適切ではありません。象の管理方式は施設や時代によって変化しており、安全管理の考え方も進歩しています。
昔の象飼育と現在では安全管理の考え方も変化している
1993年の映像を見るうえで重要なのは、約30年以上前の動物園飼育を現在の方法とそのまま比較しないことです。象の飼育管理については、動物福祉や行動学だけでなく、飼育スタッフの労働安全という観点からも継続的に改善が進められています。
AZAでは現在、象を飼育する認定施設の飼育担当者などに専門的な教育を求めています。象管理の研修には、飼育方法だけでなく職業上の安全、設備、トレーニング、獣医療、フットケアなども含まれています。[参照:AZA Staff Training & Education]
またAZAは象の管理にブルフックを使用することを禁止する方針も掲げています。[参照:AZA Relevant Policies] このように象と人との関係については、過去から現在まで同じ方法が固定的に続いているわけではありません。
「ほうきで掃いている」ように見える作業は何をしていた可能性がある?
映像だけから当時の飼育員の作業目的を断定することはできませんが、象の体表をブラシ状の道具でこする作業であれば、泥や汚れを落とすこと、皮膚を手入れすること、体表を観察することなどが考えられます。
象の皮膚は一見すると非常に頑丈そうですが、適切な管理が必要です。また足についても、飼育下の象では重要な健康管理項目の一つです。現在の象管理に関する専門教育でもフットケアは独立した重要項目として扱われています。[参照:AZA Principles of Elephant Management]
したがって「象をほうきで雑に掃除していた」と見るより、身体のケアや清掃の一環だった可能性を考えるほうが自然です。ただし、そのドラマの撮影時に具体的にどのような目的で行われていた作業なのかについては、当時の動物園側の記録や担当者の説明がなければ確定できません。
ドラマの場面は演技ではなく実際の飼育作業だった可能性もある
『高校教師』は1993年1月から3月に放送された作品で、第4話のタイトルは「僕のために泣いてくれた」です。当時のロケ地情報にも同作品の動物園ロケに関する記録があります。[参照:高校教師(1993)ロケ地情報]
ただし、画面に映った飼育員が実際の飼育担当者だったのか、どの作業を撮影していたのか、演出上どこまで指示されていたのかについて、確認できる一次資料がない状態では断定できません。
昔のドラマでは実在する施設で撮影し、その施設の日常風景が背景として映り込むこともあります。そのため、象の手入れ風景そのものが当時の実際の飼育方法を反映していた可能性はありますが、映像だけから詳細な飼育手順まで判断しないことが大切です。
現在なら「象に乗ること」より安全にケアできる仕組みが重視される
現在の動物園飼育では、動物へ必要な医療や身体管理を行うことと、動物やスタッフ双方の安全を確保することを両立させる考え方が重要です。象に必要な姿勢を強制するのではなく、トレーニングによって自発的な協力を引き出す方法もその一つです。
そのため現在同じような身体チェックやケアを行うとしても、必ずしも飼育員が象の背中や腹部へ直接乗る必要はありません。施設の設備や管理方式によっては、防護柵越しに象へ協力してもらいながら身体の各部を確認できます。
「昔の映像では人が象の上に乗っているから間違った飼育だった」「現在は絶対に象へ触らない」という二択でもありません。象の飼育管理は施設、個体、目的によって異なり、時代とともに安全性や動物福祉に関する知見を取り入れながら更新されています。
まとめ:象のブラッシングは不自然ではないが、人が上に乗る方法は現在の一般的な飼育と同一視できない
象の体をブラシやほうき状の道具でこすったり、皮膚や足などをチェックしたりすることは、飼育下の象の身体管理として不自然な行為ではありません。また、健康管理のために象が横になるなど特定の姿勢を取ることもあります。
一方、飼育員が横になった象の体へ直接乗るほど密接に接触する方法については、「現在でも象飼育では普通に行う作業」と一括りにすることはできません。象の飼育では現在、動物福祉とともに飼育員の安全確保が重視され、トレーニングや設備を利用した管理方法が発達しています。
1993年の『高校教師』に映る場面は、当時の象飼育の一端を偶然見ることができる興味深い映像とも考えられます。ただし、映像だけでは作業の目的や当時の管理方式までは確定できないため、「体をブラッシングすること」と「飼育員が象の上へ乗るほど直接接触すること」を分けて考えると、現在との違いを理解しやすいでしょう。


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