火山国である日本には、北海道から沖縄まで数多くの温泉があります。別府、草津、箱根、道後、有馬など有名温泉地の印象が強いため、「火山のある地域だけに温泉が湧く」と思われがちですが、実際の温泉の成り立ちはそれほど単純ではありません。
環境省が公表している都道府県別の温泉利用状況を見ると、47都道府県すべてに温泉の源泉が存在します。つまり「現在、温泉が存在する都道府県はどこか」という意味なら、答えは47都道府県すべてです。[参照] 環境省「温泉利用状況」
ただし、これは「日本中どこを掘っても必ず温泉が出る」という意味ではありません。また、温泉法上の「温泉」は必ずしも熱いお湯とは限りません。日本の温泉を理解するには、法律上の定義と地下で温泉が生まれる仕組みを分けて考える必要があります。
結論|日本には47都道府県すべてに温泉の源泉がある
環境省の「温泉利用状況」は、都道府県ごとに温泉地数、源泉数、湧出量、温泉を利用する宿泊施設や公衆浴場などを集計しています。その統計では、47都道府県すべてで源泉数が計上されています。
したがって、「北海道や九州には温泉があるが、東京や大阪のような大都市には温泉がない」「火山のない県には温泉が存在しない」という理解は正しくありません。大都市圏や火山から離れた地域にも温泉は存在します。
ただし、「全都道府県に温泉が存在する」と「日本全国の任意の場所で掘削すれば温泉が必ず出る」は別の話です。地下の地質、地下水、深さ、温度、成分などによって条件は大きく異なり、掘削しても期待した温泉が得られないことがあります。
そもそも「温泉」と呼べる条件とは?
日本では「温泉」という言葉に法律上の定義があります。環境省によると、温泉法では、地中から湧出する温水、鉱水、水蒸気その他のガスのうち、法律で定められた温度または物質を有するものが温泉です。[参照] 環境省「温泉の定義」
代表的な条件が源泉から採取されるときの温度が25℃以上であることです。しかし、ここで重要なのが「または」という部分です。25℃未満でも、溶存物質、遊離二酸化炭素、リチウムイオン、鉄イオン、硫黄、メタけい酸など、温泉法で指定された物質のいずれかが規定量以上含まれていれば温泉に該当します。
つまり、温泉=40℃前後の熱いお湯というわけではありません。入浴すると冷たく感じる源泉であっても、成分の条件を満たせば法律上は立派な温泉です。
温泉は火山の近くにしか湧かないわけではない
温泉というと、地下のマグマで熱せられた地下水が地表へ湧き出すイメージがあります。実際、火山活動と密接に関係する温泉は日本各地にあり、火山地帯に有名温泉地が多い理由の一つでもあります。
しかし、日本には非火山性温泉も多数あります。産業技術総合研究所の地質調査総合センターも、日本列島には非火山性の温泉が多数存在すると説明しています。[参照] 産総研 地質調査総合センター「深部流体の起源」
したがって、「近くに火山がない=温泉は出ない」とは判断できません。地下水が地下深くを循環して温められるタイプや、長期間地下に閉じ込められていた水、深部から上昇してきた流体など、温泉の形成にはさまざまな仕組みがあります。
東京にも温泉があるのはなぜ?
非火山地域の温泉を理解する分かりやすい例が東京です。東京都内には温泉施設が多数ありますが、都心の地下に浅いマグマだまりがあるから温泉が出ているわけではありません。
産総研地質調査総合センターによると、非火山地域でも地下深部から熱が伝わっており、地温は深くなるにつれて上昇します。同センターは関東平野南部について、地温の上昇率を平均すると100mにつき約3℃と説明しています。[参照] 産総研 地質調査総合センター「東京にどうして温泉があるの?」
同資料では、地表温度を20℃と仮定した単純計算なら地下1,000mでは50℃、地下3,000mでは100℃を超えると説明されています。実際の地下温度は場所によって異なりますが、深い地下に存在する温水・熱水を取り出すことで、火山から離れた大都市でも温泉を利用できるわけです。
自然に湧く温泉と掘って見つける温泉は違う
「温泉が湧く」という言葉から、山の岩の隙間などから自然にお湯が流れ出している光景を想像することがあります。しかし、現代の温泉には自然湧出する源泉だけでなく、井戸を掘削して地下の温泉を取り出している源泉も多数あります。
環境省の温泉統計でも、源泉は自噴と動力によるものなどに分けて集計されています。地下に温泉資源があっても自然に地表まで出てくるとは限らず、深い井戸を掘り、ポンプを使って汲み上げる場合があります。
この違いは「47都道府県どこでも温泉が湧くのか」を考える際に重要です。全都道府県に源泉があるからといって、各都道府県の至る所で地面から自然に温泉が湧いているわけではありません。
深く掘れば日本中どこでも温泉になる?
地下へ深く進むほど一般に地温が高くなるため、「それなら日本ではどこでも深く掘れば温泉になるのでは」と考えたくなります。実際、環境省の温泉小委員会でも、大深度掘削による温泉について議論されており、1,000m程度掘削すると25℃以上になることが現実的であるとの説明がされています。[参照] 環境省「中央環境審議会自然環境部会温泉小委員会」
しかし、これは「日本全国で1,000m掘れば100%温泉が出る」という保証ではありません。地下の温度勾配、地質構造、水を蓄える地層の有無、地下水量、成分などには地域差があります。
さらに、温泉を掘削する場合は自由に穴を掘ればよいわけでもありません。温泉法により温泉を湧出させる目的で土地を掘削する場合には、都道府県知事の許可が必要です。既存の温泉資源への影響や災害防止なども考慮されます。[参照] 環境省「温泉法の概要」
25℃未満でも温泉になるのが意外なポイント
環境省の都道府県別統計を見ると、「25度未満」に分類された源泉も数多く存在します。一見すると矛盾しているようですが、これは温泉法が温度だけで温泉を決めていないためです。
例えば源泉温度が20℃しかなくても、温泉法で指定されている物質が基準量以上含まれていれば温泉です。そのままでは入浴には冷たいので、施設で加温して浴槽に供給することもあります。
反対に、単に家庭で水道水を40℃に沸かしたものが温泉になるわけではありません。温泉法では地中から湧出する温水・鉱水などであることが前提だからです。「熱いお湯」と「法律上の温泉」は同じ概念ではありません。
温泉地が多い県と少ない県があるのはなぜ?
47都道府県すべてに源泉があるとはいえ、その数や湧出量は均等ではありません。環境省の統計を見ると、北海道のように2,000を超える源泉が数えられる地域がある一方、源泉数が非常に少ない県もあります。
この差には、火山や断層、地下の地質構造、地下水、熱源といった自然条件に加えて、温泉開発の歴史、掘削コスト、需要、観光地としての発展など人間側の事情も関係します。
そのため「温泉が存在する県」と「有名な温泉地が多い県」は区別したほうがよいでしょう。源泉が存在していても、大規模な温泉街や温泉旅館街が形成されていない地域はあります。
「温泉地」「源泉」「温泉施設」はそれぞれ別物
温泉について調べる際には、「温泉地」「源泉」「温泉施設」という言葉を混同しないことも大切です。源泉は地下から温泉が湧出・採取される場所であり、その温泉を利用する旅館やホテル、公衆浴場などが温泉利用施設です。
一方、「温泉地」は複数の宿泊施設などが集まった地域として扱われる場合があります。そのため、ある県の温泉地数が少ないからといって、その県に温泉の源泉がほとんど存在しないとは限りません。
全国の状況を比較したい場合は、環境省の「温泉利用状況」にある源泉総数、利用源泉数、温泉地数、湧出量を分けて見ると実態をつかみやすくなります。
日本で温泉が非常に身近な理由
日本列島は火山活動が活発な地域に位置していることに加え、非火山地域にも地下深部の熱水やさまざまな起源を持つ地下水があります。この地質的な条件が、日本の豊富な温泉資源を支えています。
さらに温泉法では25℃以上という温度条件だけでなく、一定の物質を含む地下水も温泉に含まれます。この法律上の定義の広さも、全国各地に「温泉」が存在する理由を理解するうえで重要です。
つまり日本の温泉は、「火山で熱せられた熱湯」だけではありません。火山性温泉、非火山性温泉、深層の温水、成分によって温泉に該当する低温の源泉など、実に多様です。
まとめ|47都道府県すべてに温泉はあるが「どこを掘っても出る」わけではない
環境省の都道府県別温泉統計では、47都道府県すべてに温泉の源泉が確認されています。その意味では「日本は全都道府県に温泉がある」といって差し支えありません。
一方、「日本全国どこでも温泉が自然湧出する」「好きな場所を掘れば必ず温泉が出る」という意味ではありません。温泉資源の存在や温度、湧出量、深度は地下の地質条件などによって異なり、掘削しても十分な温泉が得られる保証はありません。
また、温泉法では源泉温度25℃以上なら温泉となり、25℃未満でも指定された物質を基準量以上含めば温泉に該当します。このため、火山のない地域や都市部、冷たい源泉でも「温泉」が成立します。
「47都道府県すべてに温泉は存在する。しかし、47都道府県のどこを掘っても必ず温泉が出るわけではない」と整理するのが、最も正確で分かりやすいでしょう。


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