ネパールはなぜ人口が多い?ヒマラヤの山国なのに約3000万人が暮らす理由を地形・農業・出生率から解説

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ネパールというと、エベレストをはじめとするヒマラヤ山脈のイメージが強いため、「標高が高く、農業に向かない土地が多いのに、なぜ人口が約3000万人もいるのか」と不思議に感じる人は少なくありません。しかし、ネパールは国土全体が高山地帯というわけではありません。2021年国勢調査では人口は約2916万人で、そのうち約53.6%が南部の低地「タライ地方」に暮らしています。山岳地域に住む人口は約6.1%にすぎません。[参照]つまり、ネパールの人口の多さを理解するには、「高い山の国」という印象から少し離れ、南部の平野部、歴史的な高出生率、死亡率の低下、人口増加の時間差などを合わせて見る必要があります。

ネパールの人口は約3000万人で、国土面積の割には確かに多い

ネパールの2021年国勢調査人口は29,164,578人でした。世界銀行のデータでも、2025年の人口は約2962万人とされています。[参照]

ネパールの国土面積は約14万7516平方キロメートルで、日本の4割弱ほどです。ネパール政府資料では、標高約67メートルの低地から8848.86メートルのエベレストまで、非常に大きな標高差がある国とされています。[参照]

2021年時点の人口密度は1平方キロメートルあたり約198人です。[参照]世界的に見て極端な超人口密集国というほどではありませんが、「ヒマラヤの山国」という印象から想像する人口よりはかなり多く感じられるでしょう。

最大の誤解は「ネパールの大部分の人が高山で暮らしている」と考えること

ネパールの風景として世界的に有名なのはヒマラヤですが、人口分布を見ると実際の姿は大きく異なります。

2021年国勢調査では、ネパールの人口約2916万人のうち、南部のタライ地方に約1563万人、丘陵地方に約1176万人、山岳地方に約177万人が住んでいます。割合ではタライ53.61%、丘陵40.31%、山岳6.08%です。[参照]

つまり、ネパール人の9割以上は「山岳地方」以外に住んでいます。エベレスト周辺のような高標高地域が国を代表する景観である一方、人口の中心はもっと低い地域です。

南部のタライ地方は標高が低く、農業生産に適した平野である

ネパール南部には、インド国境に沿って「タライ(Terai)」と呼ばれる平野が広がっています。ネパール観光局によると、タライ地方は標高およそ60~305メートルの低地です。[参照]

ヒマラヤの高山地帯とは気候も土地利用も大きく異なり、タライはガンジス平原につながる沖積低地です。米、小麦、トウモロコシ、サトウキビなどの農業が行われ、交通網や都市も発達しています。

そのため「ネパールは標高が高く、生産力の低い土地しかない」というイメージは実際とはかなり違います。国土のすべてが農業に向いているわけではありませんが、人口を支える大きな低地農業地域を持っています。

タライ地方だけでネパール人口の半分以上が暮らしている

ネパールの人口増加を考えるうえで、タライへの人口集中は非常に重要です。

ネパール統計当局の分析では、タライ地方の人口は1971年の約430万人から2021年には約1560万人へと、50年間で3倍以上に増えています。一方、山岳・丘陵地域を合わせた人口の増加はそれより緩やかでした。[参照]

背景には自然増だけでなく、山間部から交通・農業・商業に有利な南部低地へ人が移動してきたこともあります。現在のネパール人口は、高山地帯へ均等に分散しているのではなく、住みやすい地域へ強く集中しているのです。

カトマンズ盆地など丘陵部にも人口を支えられる場所がある

タライだけでなく、丘陵地域にも人口が集中する場所があります。代表的なのが首都カトマンズを含むカトマンズ盆地です。

「丘陵」と聞くと険しい斜面ばかりを想像しがちですが、盆地や河谷には古くから都市や農地が発達してきました。2021年国勢調査ではカトマンズ郡だけで約204万人と、ネパール77郡の中で最も人口が多くなっています。[参照]

ネパールの人口分布は「標高が高いか低いか」だけではなく、盆地、平野、河川、交通路、都市、農業条件などによって形成されています。

過去の出生率が非常に高かったことも人口が多い大きな理由

現在の人口規模は、今の出生率だけで決まったものではありません。数十年前の出生率の高さが大きく影響しています。

UNFPAの資料によると、ネパールの合計特殊出生率は1976年には女性1人あたり約6.3人でした。その後、1996年でも4.6人でしたが、2022年には約2.1人まで低下しています。[参照][参照]

例えば、1世代前に1組の夫婦から4~6人程度の子どもが生まれる社会が長く続けば、その子どもたちが成人するころには人口の土台が大きくなります。出生率がその後低下しても、人口がすぐに減るわけではありません。

死亡率の低下によって人口が急増しやすい時期があった

人口増加は出生率だけでなく死亡率にも左右されます。近代化の過程では、出生率が高いまま医療・衛生・栄養状態が改善し、乳幼児死亡率などが低下すると人口が急増することがあります。

ネパールでも20世紀後半以降、医療へのアクセス、予防接種、公衆衛生などの改善によって死亡率が下がりました。一方で出生率の低下はそれより遅れて進んだため、一定期間は「生まれる人が多く、亡くなる人が減る」という人口増加が起こりました。

このような変化は「人口転換」と呼ばれ、ネパールだけでなくアジア、ラテンアメリカなど多くの国で見られた現象です。

出生率が下がっても人口がすぐ減らない「人口モメンタム」がある

ネパールでは現在、出生率は昔より大幅に低下しています。それでも人口が約3000万人あるのは、過去に生まれた大きな世代が現在も人口を構成しているからです。

UNFPAは、ネパールでは若年人口が厚く、現在も生産年齢人口の割合が大きい「ユース・バルジ」の段階にあると説明しています。2021年時点で15~64歳人口は全体の約64.6%でした。[参照]

若い世代が多い国では、一人の女性が産む子どもの数が減っても、出産年齢の女性そのものが多いため、出生数がしばらく一定規模を維持します。この現象を人口モメンタムといいます。

実はネパールの人口増加率はすでにかなり低下している

「ネパールは人口がどんどん増えている国」という印象も、現在では少し修正が必要です。

2021年国勢調査では人口は約2916万人で、2011年の約2649万人から増えましたが、年間人口増加率は約0.9%まで低下しました。UNFPAによると、2001年には約2.3%だった人口増加率が2021年には0.9%まで落ちています。[参照]

世界銀行の推計では2023年約2969万人、2024年約2965万人、2025年約2962万人となっており、最近は人口がほぼ横ばいからわずかな減少を示すデータもあります。[参照]

したがって、現在の約3000万人という人口は「今も非常に高い出生率で急増している結果」というより、過去数十年間に形成された大きな人口規模が残っていると考える方が正確です。

海外出稼ぎが多いため、国内に実際にいる人口の印象とはずれることもある

ネパールは海外への労働移住が非常に多い国でもあります。若年・生産年齢人口の一部が湾岸諸国、マレーシア、インドなど海外で働いています。

そのため統計上の総人口規模と、国内各地域で日常的に感じられる人口密度が一致しないことがあります。UNFPAも、近年の人口増加率低下の背景として出生率の低下に加えて海外移住の増加を挙げています。[参照]

特に山岳・丘陵部では若者の都市部・海外への移動が進んでおり、人口が南部や都市部へ偏る傾向も強くなっています。

「農業生産力が低そうなのに人口が多い」のは現代ではそれほど不思議ではない

人口を考える際、「その国の土地だけで食料をどれだけ作れるか」という視点は重要ですが、現代国家の人口規模は国内農地の生産力だけでは決まりません。

食料は地域間・国際間で流通しますし、人々は農業だけで生活しているわけではありません。都市部では商業、サービス業、観光業、製造業などさまざまな産業があります。またネパールでは海外就労者からの送金も家計や経済を支える重要な要素です。

そのため、山岳地帯が多いという地理条件だけから「人口は少ないはず」と予想すると、実際の人口とのギャップが生じます。

人口密度で見るとネパールは意外に普通の人口規模でもある

ネパールの人口は約3000万人なので、数字だけを見るとかなり大きく感じます。しかし国土面積約14.75万平方キロメートルに対する2021年人口密度は約198人/平方キロメートルです。[参照]

つまり国全体が極端に人で埋め尽くされているわけではありません。山岳地域は非常に人口密度が低い一方、タライ平野やカトマンズ周辺などに人口が集中することで、全国合計では約3000万人になっています。

ネパールを「エベレストのある高山国」という一点だけで想像すると人口が多く見えますが、「南アジアの人口密集地域であるインド平原に接し、南部に大きな低地人口を抱える国」と考えると理解しやすくなります。

まとめ:ネパールの人口が多いのは、高山だけの国ではないから

ネパールの人口が約3000万人に達している最大のポイントは、ネパール=ヒマラヤ高山地帯というイメージと、実際の人口分布が大きく異なることです。

2021年国勢調査では人口の53.61%が南部のタライ平野、40.31%が丘陵地域に住み、山岳地域の人口はわずか6.08%でした。[参照]南部には標高数十~数百メートルの平野があり、農業や都市活動を支えられる土地があります。

さらに、ネパールでは1970~1990年代まで出生率が非常に高く、その後に医療・衛生環境の改善で死亡率が低下したため、人口が大きく増える時期がありました。出生率は2022年には約2.1まで低下していますが、過去に生まれた大きな世代が残っているため、人口は現在も約3000万人規模です。[参照]

したがって、「標高の高い生産力の低い国なのになぜ人が多いのか」という疑問への答えは、実際には大半の人が高山に住んでおらず、人口を支えられるタライ平野や盆地があり、そこへ過去の高出生率と死亡率低下による人口増加が重なったためと整理できます。

なお現在のネパールは、かつてのような急激な人口増加局面からはすでに移行しつつあります。出生率は低下し、海外移住も多いため、今後はむしろ人口増加の鈍化や高齢化が重要な課題になっていくと考えられています。

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