コロナ禍・2024年問題後も高頻度で維持されるバス路線の共通点とは?利用者・運転士・自治体連携から考える持続可能な路線バス

バス、タクシー

コロナ禍による利用者減少や、2024年4月からのバス運転者の時間外労働上限規制・改善基準告示の見直しを経て、全国では路線バスの減便や廃止が大きな課題になっています。一方で、同じ厳しい環境下でも10分~20分間隔など比較的高いサービス水準を維持している路線や、再編によってむしろ利便性を高めた地域も存在します。こうした路線には、単純に「利用者が多い」というだけではなく、需要が集中する幹線であること、運転士を効率的に使えるダイヤ・路線構造、自治体と事業者の連携、データに基づく再編、利用者にとって分かりやすいサービスといった共通点があります。国土交通省も、路線を単純に残すだけではなく、重複路線の整理、幹線と支線の役割分担、共同経営、等間隔運行などによって公共交通を持続させる「地域公共交通のリ・デザイン」を進めています。[参照]

2024年問題は「バスを走らせられる時間」の制約を強めた

路線バスを取り巻く環境を理解するには、まず2024年問題を確認する必要があります。2024年4月から自動車運転者にも時間外労働の上限規制が適用され、原則として月45時間・年360時間、臨時的な特別事情があっても年960時間が上限となりました。同時に、バス運転者の拘束時間や休息期間などを定める改善基準告示も改正されています。[参照]

この制度改正自体は運転者の健康や安全を守るために必要なものですが、運転士不足の状態で従来と同じ本数を維持しようとすると、これまで以上の人数が必要になります。国土交通省の白書資料では、バス運転者を確保できなければ路線の減便・廃止につながることが示されており、2023年中には約8割の路線バス会社が減便・廃止を行ったとされています。[参照]

つまり現在のバス会社にとって重要なのは、単純な採算性だけではありません。限られた運転士をどの路線、どの時間帯に投入すれば最も多くの利用者を運べるかという「人的資源の配分」が、以前よりはるかに重要になっています。

高サービスを維持しやすい最大の条件は「需要が太い幹線」であること

高頻度運行を維持できる路線には、まず一定以上の利用者が継続的に存在するという特徴があります。ただし重要なのは、単に年間利用者数が多いことではなく、一つの道路・区間に需要を集められることです。

例えば大都市の駅と住宅地を結ぶ路線、中心駅と大学・病院・商業施設を結ぶ路線、鉄道駅同士を結ぶ路線などでは、通勤・通学・通院・買い物という異なる目的の利用者が同じ区間を使います。朝夕だけではなく昼間にも一定の需要があるため、終日にわたって本数を確保しやすくなります。

逆に、同じ利用者数でも複数の細い路線へ分散してしまうと、各路線を高頻度で維持するために多くの車両と運転士が必要になります。そこで最近の公共交通政策では、需要の大きな区間へ便を集約する「幹線化」と、住宅地などから幹線へ接続する「支線化」が重要視されています。

「路線をたくさん残す」より「幹線を高頻度にする」地域は強い

一見すると路線数が多い方がサービスが良いように見えます。しかし運転士不足時代には、低頻度の路線を多数維持するより、主要区間へ運行を集中した方が利用者にとって便利になる場合があります。

例えばA駅から市役所まで、従来は4つの会社がそれぞれ30分間隔で走っていたものの、発車時刻が近いため「10時00分、10時05分に来た後、次は10時30分」というダイヤになっていたとします。車両は多数投入されていても、利用者から見ると待ち時間に偏りがあります。

これを事業者間で調整し、10時00分、10時10分、10時20分、10時30分という等間隔にすれば、総便数が同じでもサービス品質は大きく改善します。高サービス路線では、このように本数そのものだけでなく「使いやすい本数」に変える工夫が行われています。

熊本の共同経営は「競争」から「協調」へ切り替えた代表例

こうした考え方の代表例が熊本地域です。熊本市周辺では複数のバス事業者が同じ区間で競合していましたが、2021年から5社による共同経営が始まりました。

国土交通省によると、熊本の共同経営では重複区間について運行事業者や便数を見直し、ダイヤを調整して待ち時間を平準化することで、利便性を確保しながら運行の効率化を図っています。[参照]

その後も重複する系統の整理、会社間での路線移譲、熊本市中心部への均一運賃導入などが行われています。国土交通省は、この取り組みを利便性向上と持続可能性を両立する事例として紹介しています。[参照]

ここから分かるのは、利用者が多い地域でも「各社が昔の路線をそのまま守る」だけでは持続できないということです。限られた運転士を同じ道路へ重複投入するより、事業者同士が協調して配置を最適化する方が、高いサービスを維持しやすくなります。

高頻度を維持できる路線ほどダイヤが「単純で覚えやすい」

高サービスのバス路線では、ダイヤの分かりやすさも重要です。例えば毎時05分・20分・35分・50分の15分間隔なら、利用者は時刻表を細かく覚えなくても利用できます。

これに対して、8時07分、8時24分、8時51分、9時18分というように間隔が不規則だと、同程度の便数でも心理的には「時刻表を確認しないと使えない交通機関」になります。

国土交通省が紹介する八戸市の事例では、バス路線を階層化し、幹線軸を高頻度・等間隔で運行することで「迷わず乗れる」公共交通サービスを実現したとされています。[参照]

高頻度運行が需要を生み、利用者が増えることで高頻度運行を維持しやすくなるという好循環が成立すると、バスは鉄道に近い感覚で利用できるようになります。

車両を小型化して本数を増やすという逆転の発想もある

利用者が減っている地域では、「大型バスを減便する」ことだけが解決策ではありません。車両を小さくして運行コストを抑えながら、運行頻度を維持・向上させる方法もあります。

国土交通省が優良事例として紹介している山形県鶴岡市では、市内循環バスについて車両を小型化し、きめ細かなルート設定と多頻度化を行いました。その結果、利便性向上と利用者の大幅な増加につながったとされています。[参照]

例えば60人乗りの大型バスを1時間に1本走らせるより、需要に見合った小型車両を30分間隔で走らせた方が、利用者にとって便利な場合があります。もちろん運転士数という制約は残りますが、車両費や燃料費、狭い道路への対応などを含めて路線全体を再設計できます。

鉄道駅・病院・学校・商業施設など「移動目的」が複数ある路線は安定しやすい

特定の利用目的だけに依存する路線は、環境変化の影響を受けやすい傾向があります。例えば通学需要だけに依存していると、学校の統廃合や少子化によって利用者が急減する可能性があります。

一方で、駅、病院、学校、役所、商業施設、観光地など複数の目的地を一本の幹線が結んでいる場合、利用時間帯が分散します。朝は通勤・通学、昼は通院や買い物、休日は観光という形で需要が重なれば、車両の稼働効率が上がります。

高サービスを維持している路線の中には、単純に人口が多いだけでなく、沿線の都市構造そのものが公共交通を利用しやすい形になっている路線が少なくありません。

自治体が「赤字補填」だけでなく交通網の設計に関与している

持続しているバス路線では、自治体の関与も重要です。ただし、単純に赤字分を税金で補填すればよいという意味ではありません。

現在の国の地域交通政策では、自治体、交通事業者、住民、医療・福祉、教育、観光などの関係者が連携し、地域全体の交通ネットワークを設計することが重視されています。2026年3月に閣議決定された地域公共交通活性化再生法の改正案でも、地域の輸送資源の活用や共同化・協業化を進め、交通空白を解消する方針が示されています。[参照]

例えば病院送迎バス、学校バス、自治体コミュニティバス、民間路線バスがそれぞれ別々に走っている地域では、人も車両も分散します。これらを統合・接続できれば、同じ公的負担でも利用者にとって便利な交通を提供できる可能性があります。

ICカードや乗降データを使って「残す便」を判断している

かつてのバス路線見直しでは、運転士の経験や目視による乗車人数が重要な情報源でした。現在ではICカード、乗降センサー、GPSなどによって、何時のどの停留所から何人が乗ったかを詳細に把握できるようになっています。

国土交通省の2025年度優良事例では、八戸圏域でバスICカードのデータを可視化・分析する仕組みを構築し、路線再編の議論を迅速化・高度化した取り組みが紹介されています。[参照]

例えば「平日13時の便は毎日3人しか乗らないが、14時の便は病院の診療終了時間と重なって30人乗る」と分かれば、単純に全時間帯を一律減便する必要はありません。需要の薄い便を整理し、需要の強い便へ運転士を振り向けることでサービスを守ることができます。

運転士を確保できる会社・地域であることも当然ながら大きい

どれだけ利用者が多くても、運転士がいなければバスは走れません。現在の減便の特徴は、必ずしも「赤字だから減便」だけではなく、需要があるのに運転士不足で減便するケースが増えていることです。

関東運輸局の調査では、2021年4月から2024年12月までに減便・廃止があったと回答した自治体が65.6%に上り、2023年度・2024年度になるにつれて運転者不足が主要な要因として大きくなっています。[参照]

そのため高サービスを維持する地域では、給与・休日・勤務体系の改善、大型二種免許取得支援、女性や若年層の採用、営業所配置の見直しなど、運転士確保への取り組みも不可欠です。路線の収益だけを見ていても持続性は判断できません。

営業所に近く運行効率が良い路線は残りやすい

同じ利用者数でも、運行コストは路線によって異なります。意外に重要なのが営業所や車庫との位置関係です。

営業所から路線の始発地点まで30分かかる場合、その移動時間にも車両・燃料・運転士の拘束時間が必要です。これを「回送」といい、利用者を乗せていなくても人的・金銭的コストが発生します。

一方、営業所付近から出発し、終点から別の需要の大きな路線へそのまま運用できる路線であれば、同じ運転士1人でも多くの営業運転ができます。高サービス路線が維持できる背景には、こうした一般利用者からは見えにくい運用上の効率性もあります。

鉄道と並行していてもバスが強い路線には理由がある

「鉄道があるならバスは不要」と考えられがちですが、必ずしもそうではありません。鉄道駅の間隔が長かったり、駅から住宅地や病院まで距離があったりすれば、バスには独自の需要があります。

また鉄道が都心方向へ放射状に走る一方、バスが隣接する鉄道路線を横方向に結ぶケースでは、鉄道では代替しにくい移動を担います。このような路線は「鉄道の競合」ではなく「鉄道ネットワークを補完する幹線」として利用されます。

高頻度のバス路線を評価するときは、単独路線の収支だけでなく、鉄道・他のバス・地域交通とのネットワーク効果を見ることが重要です。

高サービス路線ほど「乗れば便利」という利用者の信頼がある

公共交通では、利便性と利用者数の間に循環関係があります。減便すると利用者が減り、利用者が減るとさらに減便しなければならなくなるという悪循環が起きることがあります。

例えば1時間に4本あるバスなら、「多少待てば来る」と考えて自家用車を使わない人もいます。しかし1日4本まで減ると、利用者はまず時刻表を確認しなければならず、帰りの時間もバスに合わせる必要があります。その結果、自家用車や家族の送迎へ移行する人が増え、さらに利用者が減ります。

逆に高頻度運行を守ること自体が需要を維持する政策になります。このため需要の大きな幹線については、多少の重複路線を整理してでも一定の本数を集中させることに意味があります。

「高サービス=昔の路線をそのまま維持」ではない

コロナ禍や2024年問題を経ても便利なバスネットワークを維持している地域を見ると、昔のダイヤを何とか守り続けているというより、むしろ積極的に変更しているケースが目立ちます。

国土交通省の優良事例では、長崎市で競合する路線の運行事業者を一本化し、等間隔運行や幹線・地域路線のハブ&スポーク化を進めることで、利便性の維持、運行効率化、事業者の収支改善を実現した事例が紹介されています。[参照]

つまり、残っている高サービス路線には「何も変えなかったから残った路線」だけでなく、路線網をかなり変えたから高サービスを残せた路線もあります。

なぜ「維持できているバス路線」はニュースになりにくいのか

路線バスをめぐる報道では、「○路線廃止」「最終便を2時間繰り上げ」「運転士不足で100便減便」といったニュースが目立ちます。これは必ずしも社会が成功例に無関心だからというより、ニュースの性質とも関係しています。

鉄道路線の廃止や新線開業は日付・区間が明確で、大きなイベントになります。一方、バスの改善は「5分間隔を10分間隔に整える」「重複系統を一本化する」「乗り継ぎを改善する」「ICデータを使ってダイヤを調整する」といった細かな変更の積み重ねであることが多く、全国ニュースにはなりにくい面があります。

また、何事もなく毎朝10分間隔でバスが来る状態は、利用者にとっては「普通の日常」です。しかし現在の運転士不足を考えると、高頻度運行が何年も維持されていること自体が、実は事業者・自治体・利用者による相当な努力の結果である場合があります。

高サービスを維持するバス路線の共通点を整理すると

全国すべての成功路線に当てはまる万能な条件はありませんが、持続性の高いバス路線には次のような特徴が複数重なっていることが多いと考えられます。

  • 需要が集中する幹線区間がある
  • 通勤・通学・通院・買い物など複数の利用目的がある
  • 鉄道駅や主要施設との接続が良い
  • 15分・20分間隔など分かりやすいダイヤになっている
  • 重複路線を整理し、限られた運転士を効率的に配置している
  • 幹線と支線の役割が明確になっている
  • 複数事業者や自治体が協調している
  • ICカード・GPSなどのデータを路線再編に活用している
  • 必要に応じて小型車やオンデマンド交通を組み合わせている
  • 自治体が単純な赤字補填ではなく交通ネットワーク設計へ関与している
  • 運転士の確保・待遇改善にも取り組んでいる
  • 利用者側にも「バスを使えば便利」という習慣が定着している

特に重要なのは、これらが単独ではなく組み合わさることです。利用者が多くても運転士不足なら減便されますし、行政補助が多くても利用者にとって使いにくければ長期的な利用増にはつながりにくいからです。

まとめ:強いバス路線は「需要・効率・連携・分かりやすさ」がそろっている

コロナ禍と2024年問題を経ても高いサービス水準を維持しているバス路線には、単純に「都会だから」「黒字だから」だけでは説明できない共通点があります。

最も大きいのは、需要のある幹線へ運行資源を集中し、限られた運転士で最大限のサービスを提供できるネットワークになっていることです。さらに等間隔ダイヤ、鉄道との接続、複数事業者の共同経営、自治体との連携、乗降データを使った路線再編などが組み合わされると、高頻度運行を維持しやすくなります。

熊本では複数のバス会社が共同経営によって重複区間を整理し、待ち時間を平準化しています。長崎では競合路線の運行事業者一本化や幹線・支線化によって利便性と運行効率を両立し、鶴岡では車両小型化と多頻度化によって利用者増につなげています。いずれも「従来の路線をそのまま守る」のではなく、交通網を作り直すことでサービスを守った事例です。[参照]

そして2024年問題以降は、サービス維持を考えるうえで運転士の人数と労働環境を無視できません。2024年4月から時間外労働上限規制と新しい改善基準告示が適用されており、従来のように長時間労働でダイヤを支えることを前提にはできなくなりました。[参照]

これから評価すべきなのは「何路線残っているか」だけではなく、「少ない運転士でも、利用者が本当に必要とする区間に、覚えやすく高頻度なサービスを残せているか」という視点です。廃止や減便はニュースになりやすい一方、毎日当たり前のように走り続けている高サービス路線にも、地域公共交通の持続可能性を考えるヒントが数多くあります。

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