大型フェリーでは、エンジンに近い船内で聞く音と、岸壁や甲板など船外で聞く音が大きく違って感じられることがあります。機関室付近では「キーン」「ウィーン」といった甲高い機械音が目立つ一方、船外では「ゴーッ」「ドドドド」といった、こもった重低音として聞こえることがあります。
この違いは、単純に「内側ではエンジン音、外側では煙突から出る排気音」という一つの理由だけでは説明できません。エンジン本体の燃焼音や機械音、過給機、排気音、船体の振動、遮音構造、音の伝わり方などが組み合わさって、場所ごとに違った音色になります。
特に船外で低音が強く感じられる理由には、煙突から出る排気音も関係しています。ただし、それだけでなく、低周波の音ほど壁や船体を回り込みやすく、遠くまで届きやすいという音響上の性質も重要です。
フェリーのエンジン付近で甲高い音が聞こえる理由
フェリーの主機関には大型のディーゼルエンジンが使われることが多く、その周辺ではさまざまな機械が高速で動いています。そのため、機関室の近くでは単純な「爆発音」だけでなく、金属部品や補機類が発する高い周波数の音を直接聞きやすくなります。
特に甲高い音の代表的な発生源がターボチャージャー(過給機)です。大型ディーゼルエンジンでは、排気ガスのエネルギーでタービンを高速回転させ、圧縮した空気をエンジンへ送り込む過給機が広く使われています。
このタービンやコンプレッサーはエンジン本体のクランクシャフトよりはるかに高速で回転するため、「ヒューン」「キーン」「ウィーン」といった高い連続音を発生させます。エンジン負荷が変わると回転数も変化するため、船の加速中などに音程が上下して聞こえることもあります。
機関室では多くの音源を直接聞いている
機関室の近くで聞こえる音は、主機関だけから発生しているわけではありません。発電用ディーゼルエンジン、燃料ポンプ、潤滑油ポンプ、冷却水ポンプ、送風機、コンプレッサーなど、多数の補機が同時に動いています。
さらにディーゼルエンジン内部では、燃料噴射、燃焼、吸排気弁の作動、ギヤ、軸受、ピストンや連接棒などによる振動が発生します。これらの音には低い周波数から高い周波数まで幅広い成分が含まれています。
エンジンの近くでは距離が短いため、こうした高周波の機械音が減衰する前に耳へ届きます。その結果、低い「ドドド」という燃焼音よりも、過給機や歯車などの甲高い成分が強く印象に残ることがあります。
船外で「こもった重低音」になる大きな理由
一方、船の外へ出ると状況が変わります。機関室と船外の間には、鋼鉄製の壁、甲板、断熱材、遮音材、居住区などがあります。これらが音響フィルターのように働き、特に高い周波数の音を弱めます。
一般に高周波の音は障害物によって遮られやすく、空気中でも距離が離れるほど減衰しやすい性質があります。それに対して低周波の音は波長が長く、障害物の影へ回り込みやすいため、船体の外まで届きやすくなります。
その結果、機関室で聞こえていた「キーン」「カラカラ」「シャー」といった高い音は船外では目立たなくなり、燃焼や排気、船体振動に含まれる低い周波数だけが相対的に強く残ります。これが、船外ではエンジン音が「ゴーッ」とこもった重低音に聞こえやすい理由の一つです。
煙突から出る排気音も重低音の重要な発生源
船外で聞こえる低音に、煙突を通った排気音が含まれているという考え方は概ね正しいです。大型ディーゼルエンジンでは各シリンダーで周期的に燃焼が起こり、そのたびに高温・高圧の排気ガスが排気管へ送り出されます。
この排気は一定の流れではなく、圧力変動を伴った脈動です。たとえば複数のシリンダーが順番に燃焼することで、排気管内には一定周期の圧力波が発生します。それが煙突側へ伝わることで、「ボボボ」「ドドド」「ゴーッ」といった低い音になります。
ただし実際のフェリーには、排気騒音を減らすためのサイレンサーや消音器などが設けられています。そのため煙突から聞こえる音も、エンジンの燃焼音がそのまま直接出ているわけではなく、排気系統を通る間に高周波成分が減衰した音になっています。
煙突は「低音だけを出すスピーカー」ではない
煙突から聞こえる音が低いからといって、煙突そのものが低音だけを作っているわけではありません。排気音にはもともと幅広い周波数が含まれていますが、排気管や消音器を通る過程で周波数ごとの減衰量が変化します。
また長い排気管には、管の長さや太さに応じた共鳴特性があります。管楽器が管内の空気柱によって特定の音を強めるのと同様に、船舶の排気管でも特定の周波数が相対的に目立つことがあります。
もちろん船舶の排気装置は楽器として設計されているわけではありませんが、結果として「低く唸るような音」「こもった音」として感じられることがあります。船種やエンジン、排気管の設計によって音質が異なるのはこのためでもあります。
船体そのものが巨大な振動板になることもある
船外で聞こえる低音は排気だけではありません。主機関やプロペラから生じた振動が船体へ伝わり、鋼板そのものがわずかに振動して音を放射することもあります。
大型船では、エンジンは防振装置や強固な基礎を介して設置されていますが、振動を完全にゼロにすることはできません。プロペラの回転や船尾付近の水流による周期的な圧力変化も船体を振動させます。
低周波の振動は構造物を通じて伝わりやすいため、岸壁にいると煙突からだけでなく、船体全体から低い唸りが出ているように感じることがあります。実際には排気音、機械振動、プロペラ音などが重なっているわけです。
プロペラの音も「ゴーッ」という低音に加わる
フェリーが航行中なら、船外で聞こえる音にはプロペラも関係します。プロペラの羽根が水を押すと、一定周期の圧力変動が発生し、船尾周辺に振動や水中音を生じさせます。
さらに条件によっては、プロペラ周辺で圧力が低下して気泡が生じる「キャビテーション」が発生します。この気泡が生成・消滅すると広い周波数帯の騒音が発生します。
そのため航行中に甲板や港から聞く音は、「エンジン排気音だけ」とは限りません。主機関、補機、排気、プロペラ、船体振動、水流などが混ざった船全体の総合的な騒音として耳へ届いています。
車でもボンネット内とマフラー付近で音が違うのと似ている
身近な例として、自動車を考えると分かりやすくなります。車のボンネットを開けてエンジン付近で聞くと、燃料噴射装置、バルブ、ベルト、ターボなどから「カチカチ」「シャー」「ヒューン」といった比較的高い機械音が聞こえます。
一方、車の後方でマフラー付近から聞くと、「ボボボ」「ブーン」といった低い排気音が目立ちます。同じエンジンが動いていても、聞いている音源と音の通り道が違うためです。
フェリーではこの現象が大規模になります。機関室側では巨大な機械設備を近距離で聞き、船外では鋼鉄の船体や長い排気経路を通った音を聞くため、音色の差がさらに大きく感じられます。
聞く場所によっても音は大きく変わる
同じフェリーでも、船尾、船側、煙突付近、岸壁など、どこで聞くかによって音は変わります。煙突の近くなら排気音の割合が大きくなり、船尾ならプロペラや船体振動の影響が増える場合があります。
また風向きも影響します。煙突から出る排気音は空気中を伝わるため、風下側では聞こえやすく、風上側では相対的に小さく感じられる場合があります。建物や岸壁による反射によって低音が強調されることもあります。
そのため「この音はすべて煙突から」「この音はすべてエンジン本体から」と一つに特定するのは難しく、場所を変えて聞くと複数の音源を判別しやすくなります。
まとめ:外で重低音になるのは排気音だけでなく、音の伝わり方も大きい
フェリーのエンジン近くで聞く甲高い音と、船外で聞くこもった重低音が異なる最大の理由は、聞こえている音源と、そこから耳までの伝わり方が違うからです。
機関室付近では、ターボチャージャー、ポンプ、ギヤ、吸排気系統などから発生する高周波の機械音を直接聞きやすくなります。一方、船外では鋼鉄の壁や遮音材によって高い周波数が弱まり、低周波の燃焼音、排気音、船体振動などが相対的に目立ちます。
したがって、船外で聞こえる「ゴーッ」「ドドド」という音には煙突を介した排気音も確かに含まれています。ただし、それだけではなく、船体を伝わるエンジン振動やプロペラによる低周波音なども重なっています。
フェリーの外で聞く独特の重低音は、巨大なディーゼルエンジンそのものの音というより、排気設備・船体・プロペラを含めた船全体が作り出す音と考えると、実際の聞こえ方を理解しやすくなります。

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