コロナ禍・2024年問題後も高頻度運行を維持できるバス路線の共通点とは?利用密度・路線設計・運転士確保から解説【2026年版】

鉄道、列車、駅

新型コロナ禍による利用者減少に加え、2024年4月からバス運転者にも時間外労働の上限規制や改正された改善基準告示が本格適用され、全国の路線バスでは減便・廃止・最終便繰り上げなどが目立つようになりました。一方で、現在でも日中に10分間隔前後、都市部ではそれ以上の高頻度運行を維持するバス路線も存在します。こうした路線には、単純に「バス会社が儲かっている」というだけではなく、利用者が一定区間へ集中すること、短く分かりやすい幹線系統であること、鉄道を補完する独自需要があること、運転士を効率的に配置できること、自治体を含めた交通政策上の支援があることなど、いくつかの共通点があります。国土交通省も、人口減少や運転者不足、新型コロナの影響によって従来のサービス水準維持が困難になっている一方、交通事業者だけの努力では限界があり、地域全体で公共交通を再構築する必要があるとしています。[参照]

2024年問題でバス路線の維持が難しくなった理由

いわゆる「2024年問題」は物流業界でよく知られていますが、バス運転者も同じく自動車運転業務として働き方改革の影響を受けています。2024年4月からは時間外労働について原則月45時間・年360時間、臨時的な特別の事情がある場合でも年960時間という上限が適用されています。

さらにバス運転者の改善基準告示も改正され、年間拘束時間は原則3,300時間以内、1か月の拘束時間は原則281時間以内となりました。勤務終了後の休息期間についても、継続11時間以上を与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らないこととされています。[参照]

これは運転士の健康と安全を守るために必要な規制ですが、従来は長い拘束時間や中休勤務などによって成立していたダイヤでは、同じ人数で同じ便数を維持できなくなる場合があります。そこへ運転士不足が重なったため、利用者が少ない便から削減する事業者が増えました。

高サービスを維持する路線の最大の共通点は「乗客が集中している」こと

高頻度のバス路線が維持されやすい最も基本的な条件は、1台ごとに十分な利用者がいることです。人口が多い都市だからというだけではなく、特定の道路や区間に移動需要が集中していることが重要です。

例えば、鉄道駅と大規模住宅地を結ぶ路線、駅と大学を結ぶ路線、駅と病院・商業施設を結ぶ路線などでは、朝夕だけでなく日中にも一定の利用が期待できます。また複数の郊外系統が都心側で同じ道路へ合流すると、その共通区間だけ非常に高頻度になることがあります。

仮にA系統が20分間隔、B系統が20分間隔、C系統が20分間隔でも、3系統が駅前から途中まで同じ道路を走れば、その区間では平均すると約6~7分に1本のバスが来ます。このように系統単体ではなく「路線網全体として高頻度を作る」構造も、サービスを維持しやすいバス網の特徴です。

鉄道で代替しにくい移動需要を持つ路線は強い

高頻度路線には、鉄道と完全に競合しているのではなく、鉄道では取りにくい移動を担っているケースが多く見られます。

例えば東京都心では地下鉄網が発達していますが、地下鉄路線が必ずしも目的地同士を直線的に結んでいるわけではありません。駅から離れた病院、大学、住宅地、臨海部などを結ぶ移動では、乗り換えの少ないバスが有利になることがあります。

都営バスは2025年4月時点で126系統、1,447両という大規模なネットワークを持っています。2025年度の都営バス乗車人員は約2億3,383万人、1日平均約64万1千人で、前年度から増加し、自動車運送事業の経常損益も約16億円の黒字でした。[参照][参照]

もちろん都営バスのすべての路線が高収益・高頻度という意味ではありません。しかし、人口密度の高い地域で、鉄道駅間・住宅地・病院・観光地など多数の需要を一つのネットワークで拾えることは、サービス水準を維持しやすい大きな条件です。

「長い1本の路線」より幹線と支線を整理したネットワークが維持しやすい

運転士不足の時代には、路線の長さも重要になります。片道90分かかる路線を10分間隔で走らせるには大量の車両と運転士が必要ですが、片道30分なら同じ頻度でも必要な車両数を大きく抑えられます。

そのため、高サービスを持続させるには、どこからどこまででも一本で行ける長大系統を大量に作るより、利用の多い区間を幹線化して高頻度運行し、周辺地域から支線を接続する方法が有効な場合があります。

国土交通省が公共交通の優良事例として紹介している八戸市では、バス路線を階層化し、幹線軸において高頻度の等間隔運行を行うことで「迷わず乗れる」サービスを構築したことが評価されています。[参照]

これは、高サービスを維持するうえで「すべての路線を高頻度にする必要はない」という重要な考え方です。利用が多い軸へ運転士・車両を集中させることで、限られた資源でも高頻度区間を維持できます。

「10分間隔」より等間隔であることも重要

バスのサービス品質は本数だけでは決まりません。例えば1時間に6本あっても、0分・3分・8分・35分・40分・55分というダイヤでは、利用者にとって使いやすいとは言いにくいでしょう。

反対に「毎時05分・20分・35分・50分」のように15分間隔で揃っていれば、時刻表を覚えなくても利用しやすくなります。こうしたパターンダイヤは利用者にとって分かりやすいだけでなく、事業者側でも車両・乗務員運用を規則化しやすい利点があります。

八戸市の事例で「高頻度の等間隔運行」が評価されているのも、このためです。単純な便数ではなく、利用者にとって予測可能な頻度を作れるかがサービス品質を左右します。[参照]

高頻度路線は運転士1人あたりの輸送効率が高い

運転士不足になると「運転士1人で何人の乗客を運べるか」という点がこれまで以上に重要になります。

例えば同じ運転士1人が1時間運転するとして、平均5人しか乗らない路線と平均40人が乗る路線なら、後者へ運転士を配置した方が社会全体として多くの移動需要を支えられます。そのため、人手不足が深刻になるほど利用者の多い幹線路線が優先され、利用の少ない支線・早朝・深夜便などが減便対象になりやすくなります。

これは利用の少ない路線が「不要」という意味ではありません。利用者数が少なくても、通院・通学など地域生活に不可欠な路線があります。その場合には商業的な高頻度路線とは別に、公的支援を含めた維持の仕組みが必要になります。

高サービス路線は運転士の交代場所を作りやすい

意外に重要なのが営業所・操車所・折返所などの配置です。高頻度路線では単に車両を走らせるだけでなく、運転士が法令に沿って休憩・休息できる勤務体系を組まなければなりません。

営業所の近くを通る路線、主要ターミナルで乗務員を交代できる路線、途中で系統を切り替えやすい路線は、人員配置の自由度が高くなります。反対に営業所から遠い長大路線では、乗務員の回送時間や拘束時間が増え、同じ便数を維持するために多くの人員が必要になることがあります。

2024年4月以降の改善基準告示では、バス運転者の1日の拘束時間、年間拘束時間、休息期間などがより厳格になりました。[参照]そのため現在の高頻度運行には、需要だけでなく「勤務表を合法かつ無理なく組める路線構造」がますます重要になっています。

公営・民営を問わず自治体との連携が強い路線は維持しやすい

バス路線は、運賃収入だけで成立しているものばかりではありません。地域に必要な路線については国・自治体による補助制度も存在します。

国土交通省の「地域公共交通確保維持改善事業」では、地域公共交通計画に基づく路線維持や利便性向上などへの支援が行われています。[参照]

そのため、高水準のサービスが続いているからといって「その路線だけで大幅な黒字が出ている」とは限りません。地域全体の交通政策として、鉄道・バス・コミュニティ交通などを組み合わせ、必要なサービスへ公費を投入しているケースもあります。

住民や沿線企業がバスを「利用する仕組み」を作っている地域も強い

公共交通を維持するには補助金だけでなく、実際の利用を増やす仕組みも重要です。国土交通省が紹介する優良事例には、住民が費用負担してバスを支える地域や、企業・農協などとの連携によって路線収支を改善したケースがあります。

例えば富山県氷見市の事例では、地域住民主体のバスに全世帯一律の費用負担などを組み合わせ、安定収入を確保して長期間路線を維持したことが評価されています。また兵庫県三田市などの事例では、バスによる貨客混載を通じて農産物輸送と旅客輸送を組み合わせ、路線収支の改善につなげています。[参照]

つまり持続可能な路線ほど、「バス会社が赤字を我慢する」という一方向の構造ではなく、住民・自治体・企業など複数主体が交通サービスから利益を受け、その維持にも関与する構造を持っていることがあります。

コロナ後に利用者が戻った地域かどうかも大きい

新型コロナ禍では、通勤・通学、買い物、観光などの移動が一斉に減少し、バス会社の収入も大きく落ち込みました。しかし回復度合いは地域によって異なります。

現在、高頻度運行を比較的維持しやすいのは、都心への通勤通学需要、観光需要、大規模商業地、大学、病院など複数の需要が回復・存在している地域です。一つの需要だけに依存している路線よりも、朝は通勤通学、昼は買い物・病院、休日は観光というように時間帯ごとに異なる利用者が乗る路線の方が車両稼働率を高めやすくなります。

例えば都営バスでは2024年度の乗車人員が約2億3,091万人、2025年度には約2億3,383万人と増加しています。厳しい人手不足の環境でも、需要そのものが大きい都市交通では一定のサービス水準を維持しやすいことが分かります。[参照][参照]

鉄道よりバスの減便が目立ちやすい構造的な理由

鉄道とバスでは、人手不足がサービスに与える影響も少し異なります。鉄道では1人の運転士が数百人から場合によっては千人以上を一度に運ぶことができますが、一般的な路線バスでは1台につき運転士1人が必要です。

そのため100人を運ぶ場合でも、鉄道なら1列車で済むところを、バスでは複数台・複数人の運転士が必要になる場合があります。運転士不足が直接「運行できる便数」に表れやすいのがバスの特徴です。

一方でバスには、線路を建設せず需要に合わせて経路や本数を変更できる強みがあります。そのため利用者が減った地域では減便が急速に進む一方、需要が集中する区間には複数系統を集めて高頻度サービスを残すといった調整もしやすくなっています。

維持されているバス路線がニュースになりにくい理由

「廃止・減便されるバスばかり報道され、普通に維持されている路線が注目されにくい」という印象には、ニュースの性質も関係しています。

例えば「これまで1時間4本だったバスが来年も1時間4本走ります」という出来事は、利用者にとって重要でもニュースにはなりにくいでしょう。一方、「40年間走った路線が廃止」「最終便を2時間繰り上げ」「運転士不足で30便減便」といった変化には明確なニュース性があります。

したがって世論や報道だけを見ていると、全国のバスが一様に消滅へ向かっているように感じやすくなります。しかし実際には、需要の強い都市幹線、鉄道駅へのフィーダー路線、大学・病院路線など、依然として生活インフラとして高い利用を持つ区間も存在します。

「維持されている」こと自体がかなり高度な経営成果になりつつある

かつては10分間隔で走ることが当たり前だった路線でも、現在は運転士不足、燃料費、車両価格、整備費、人件費など多くのコスト上昇に対応しながらダイヤを維持する必要があります。

つまり現在の環境では、「増便した会社」だけでなく、コロナ前とほぼ同程度の本数を維持している会社も、実は相当な努力をしている場合があります。営業所間で乗務員を調整したり、不採算便を整理しながら幹線を守ったり、採用・待遇改善に資金を振り向けたりすることでサービスを維持しているケースも考えられます。

その意味では、バスを見る際に廃止路線の数だけではなく、「どの区間に人員と車両を集中させているか」「なぜその路線だけ頻度が残っているのか」を見ると、各社の経営戦略が見えやすくなります。

高頻度を維持しやすいバス路線の条件を整理すると

現在でも高いサービス水準を維持している路線には、次のような条件が複数重なっていることが多いと考えられます。

条件 高頻度を維持しやすい理由
利用者数が多い 1便あたりの乗客が多く、運転士1人あたりの輸送効率が高い
需要が幹線区間へ集中 複数系統を束ねて高頻度運行できる
鉄道では代替しにくい 駅から離れた住宅地・病院・大学など独自需要を持てる
路線が比較的短い 必要な車両・乗務員数を抑えやすい
営業所・折返所が適切 休憩や乗務員交代を組みやすい
等間隔ダイヤ 利用者に分かりやすく、車両運用も規則化しやすい
通勤以外の需要もある 昼間・休日にも利用者を確保できる
自治体との連携が強い 採算だけでは維持できない部分を公共政策として支えられる
運転士を確保できている 待遇、採用力、営業所配置などによって必要人員を維持できる

逆に、人口の少ない地域を長距離走り、片方向にしか需要がなく、1便あたりの利用者が少ない路線は、同じ1人の運転士を使うなら高需要路線より維持が難しくなります。

今後は「全路線を維持」ではなく「強い幹線を守る」方向が増える可能性

今後のバス政策では、すべての既存路線・全時間帯をそのまま維持することより、利用の多い幹線を高頻度で残し、利用の少ない地区はコミュニティバス、デマンド交通、タクシーなど別の交通手段へ再編する動きがさらに重要になると考えられます。

国土交通省も地域公共交通について、人口減少・人手不足の中で従来の形をそのまま存続させるのではなく、交通と地域の多様な主体を組み合わせる「リ・デザイン」を政策として進めています。[参照]

その結果、地域全体では路線数が減ったとしても、主要幹線だけを見ると15分間隔から10分間隔へ改善するといった再編も理論上は可能です。「路線数が多いこと」と「公共交通として便利であること」は必ずしも同じではありません。

まとめ:高サービスを維持するバス路線には「需要・効率・人員・地域支援」の共通点がある

コロナ禍や2024年問題を経ても高頻度・高サービスを維持しているバス路線には、利用者が多いだけでなく、その需要が効率よく一つの幹線へ集まり、限られた運転士と車両で多くの利用者を運べるという共通点があります。

特に、鉄道駅と住宅地・大学・病院などを結ぶ独自需要、複数系統が重なる幹線区間、短く効率的な路線、営業所や折返所を活用しやすい運行形態、等間隔ダイヤなどは、高頻度サービスを維持しやすい条件です。八戸市のように路線を階層化し、幹線へ高頻度・等間隔運行を集中させた事例も国土交通省から評価されています。[参照]

また、現在のバス事業は運賃収入だけを見ればよいものではありません。地域住民の生活、通学、通院、観光、地域経済などを支えるインフラとして、自治体・住民・企業が維持に関わる仕組みも重要になっています。国も地域公共交通確保維持改善事業などを通じて公共交通の維持・再編を支援しています。[参照]

そして、減便や廃止ばかりが目立つのは、必ずしも「維持されている路線が少ないから」だけではありません。維持は変化がないためニュースになりにくく、廃止・減便にはニュース性があるという情報上の偏りもあります。2025年度の都営バスが1日平均約64万人を運び、前年度より利用者を増やしているように、現在も大きな需要を持つバスネットワークは存在します。[参照]

2024年以降は運転士の年間拘束時間や休息期間などの基準も厳しくなり、従来と同じ本数を維持すること自体の難易度が上がっています。[参照]そのため今後のバスを見るときは、「どこが廃止されたか」だけではなく、限られた運転士をどの幹線へ集中させ、どのような路線網なら高頻度サービスを持続できるのかという視点で見ると、地域公共交通の実態をより正確に理解できます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました