新幹線に乗ると、昔の鉄道でよく聞こえた「ガタン、ゴトン」というレール継ぎ目の音がほとんど気になりません。これはレールを長く溶接した「ロングレール」が使われているためです。一方、鉄は温度が上がれば膨張するので、「何kmもつながったレールが真夏に伸びたら、横へ曲がってしまうのでは?」という疑問が生まれます。
結論からいうと、新幹線のレールが熱膨張しない特殊な材料でできているわけではありません。レールは普通に温度で伸び縮みする鋼材で、その伸びをまくらぎ・レール締結装置・道床などで強く拘束し、「伸び」という変位を主としてレール内部の圧縮力・引張力として受け持たせています。
そのため真夏には実際に非常に大きな圧縮力がレール内部に発生します。安全なのは「熱膨張しないから」ではなく、適切な温度でレールを敷設し、軌道が横方向へ動かないよう十分な抵抗力を確保し、レール温度と軸力を継続的に管理しているからです。そして近年の在来線で継ぎ目の衝撃が減ったのも、多くの区間でロングレール化が進んでいることが大きな理由です。
- 新幹線のレールは特殊な「熱膨張しない金属」ではない
- 1kmのレールは30℃温度が上がると約34cm伸びようとする
- ロングレールでは「伸びる代わりに圧縮力がたまる」
- では60トンもの圧縮力があるのになぜ横へ曲がらない?
- レールを取り付ける温度も適当に決めているわけではない
- 気温ではなく「レール温度」が重要
- ロングレールも端の部分まで完全に動かないわけではない
- 新幹線では25mレールを何本も溶接してロングレールにする
- なぜ昔の線路は「ガタンゴトン」と音がした?
- 最近の在来線があまりガタガタしないのもロングレール化が理由
- それでも在来線で「ガタン」と鳴る場所が残っている理由
- ロングレールなら夏の座屈事故は絶対に起きない?
- 冬には逆にレールが切れる方向の力がかかる
- 新幹線のスラブ軌道はロングレールとの相性がよい
- 新幹線と在来線の違いを簡単に整理
- 「継目をなくしたら膨張できない」という発想こそロングレールのポイント
- まとめ|特別な材質ではなく「熱膨張を力として受け止める」技術
新幹線のレールは特殊な「熱膨張しない金属」ではない
鉄道用レールには強度や耐摩耗性が求められるため専用のレール鋼が使われていますが、熱膨張をほとんど起こさない特殊合金というわけではありません。JR東日本の技術資料では、普通鉄道用レールは高炭素鋼に分類され、炭素含有量は0.4~0.8%程度と説明されています。[参照:JR EAST Technical Review「レールの信頼性向上を目的とした研究開発について」]
同資料ではレール鋼の線膨張係数をおよそ10のマイナス5乗/℃としており、1,000mのレールが自由に伸びられる状態なら、温度が10℃上昇するだけで10cm以上長くなると説明されています。つまり、新幹線のレールも物理法則どおりしっかり熱膨張します。
重要なのは「膨張しない材料を使う」という発想ではなく、膨張しようとするレールを軌道構造で拘束して管理するという設計思想です。
1kmのレールは30℃温度が上がると約34cm伸びようとする
鉄道総合技術研究所の解析では、レール鋼の線膨張率として1.14×10-5/℃という値が用いられています。[参照:鉄道総合技術研究所「固有振動によるレール軸力測定手法」]
この数値を使って単純計算すると、長さ1,000mのレールが自由に伸びられる場合、温度が30℃上昇すると伸びは約0.342m、つまり約34cmになります。
数kmのロングレールなら自由伸縮量はさらに大きくなるはずです。それでも実際の線路が数十cmずつ伸びて駅や橋を押しているわけではありません。その理由が、ロングレールの「不動区間」とレール内部に生じる軸力です。
ロングレールでは「伸びる代わりに圧縮力がたまる」
レールをまくらぎや軌道へ強固に固定すると、温度が上がってもレール中央部は自由に長くなることができません。その代わり、「本当は伸びたいのに伸びられない」という状態になり、レールの長手方向へ圧縮力が発生します。
逆に冬になってレール温度が下がると、本来は縮みたいのに拘束されているため、レールには引張力が発生します。つまりロングレールは、夏と冬で次のような状態になります。
| レール温度 | 自由なレール | 拘束されたロングレール | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 高温 | 長くなる | 圧縮軸力が増える | 軌道の座屈・張り出し |
| 基準となる温度付近 | - | 軸力が小さい | 設定・管理の基準 |
| 低温 | 短くなる | 引張軸力が増える | レール破断・開口 |
JR東日本は、真夏のロングレールには60トン近い軸圧縮力が蓄積する場合があると説明しています。熱膨張が消えているのではなく、大きな力へ形を変えて存在しているわけです。[参照:JR東日本]
では60トンもの圧縮力があるのになぜ横へ曲がらない?
細長い棒を両端から強く押すと、ある限界を超えたところで横へ「く」の字に曲がります。これが座屈です。ロングレールにも同じ現象が起こる可能性があり、鉄道総合技術研究所も酷暑時には大きな圧縮軸力による座屈の懸念があると説明しています。[参照:鉄道総合技術研究所「ロングレールの座屈発生温度の推定法」]
それを防いでいるのが、レールを支える軌道全体です。レール締結装置でレールをまくらぎへ固定し、まくらぎは砕石の道床やコンクリートスラブによって横方向へ動きにくくされています。
バラスト軌道では、まくらぎと周囲の砕石との間に生じる「道床横抵抗力」が非常に重要です。スラブ軌道ではコンクリート構造によってレールが高精度に支持されています。つまりレール単体の強さだけではなく、レール・締結装置・まくらぎ・道床・スラブを一つのシステムとして座屈を防いでいます。
レールを取り付ける温度も適当に決めているわけではない
もし真冬の非常に低い温度でレールを完全に固定すると、夏になったときに温度差が大きくなり、極端な圧縮力が生じます。反対に真夏の高温状態だけを基準にすると、冬の引張力が大きくなります。
そこでロングレールには、レール軸力がゼロになる基準温度である「設定温度」や「中立温度」という考え方があります。鉄道総研は中立温度を「レール軸力が0となるレールの温度」と説明しています。[参照:鉄道総合技術研究所「軌道構造に関する研究開発」]
鉄道総研の資料では、施工条件の一例としてロングレールの設定温度30~35℃という値も示されています。ただし、実際の設定温度は線区、軌道構造、想定される最高・最低レール温度などに応じて決められるため、「全国どこでも30~35℃」という意味ではありません。[参照:鉄道総合技術研究所「低温時のロングレール保守作業制限の評価法」]
気温ではなく「レール温度」が重要
夏の線路を考えるときには、天気予報の気温とレールそのものの温度を区別する必要があります。黒っぽい鋼材であるレールは直射日光を受けるため、気温よりかなり高温になることがあります。
鉄道総研による実軌道試験でも、ロングレールのレール温度と軸力を直接計測しており、夏季試験ではレール温度が17~43℃の範囲で変化する中、温度上昇に伴って軸力が変化することを確認しています。[参照:鉄道総合技術研究所]
そのため保線では外気温だけを見るのではなく、レール温度と軌道状態を管理することが重要になります。近年はレール軸力そのものをより正確に測る技術の研究も進められています。
ロングレールも端の部分まで完全に動かないわけではない
何kmものロングレールの中央付近は、温度が変化してもほぼ動かない「不動区間」になります。一方で端部に近づくと、レールが多少伸び縮みする「可動区間」が存在します。
そして必要な場所には「伸縮継目」という特殊な継目が設けられます。鉄道総研によると、新幹線のスラブ軌道区間でもロングレール端には伸縮継目が使用されており、レールの温度変化に伴う伸縮を吸収する機能があります。[参照:鉄道総合技術研究所「まくらぎ直結軌道用伸縮継目」]
つまり「新幹線にはどこにも継目が存在しない」というわけでもありません。長い一般区間では溶接したロングレールを使い、必要な端部や構造条件に応じて伸縮を処理しています。
新幹線では25mレールを何本も溶接してロングレールにする
新幹線用レールも、製鉄所から最初から何十kmもの一本のレールとして届くわけではありません。例えば鉄道・運輸機構が紹介する西九州新幹線では、1本25m、1mあたり約60kgのレールを使用しています。
それを8本溶接して200mとし、その200mレールをさらに5本つないで1kmにする工程が紹介されています。武雄温泉駅の分岐から大村車両基地までは約30kmにわたるロングレールが敷設されたとされています。[参照:鉄道・運輸機構「西九州新幹線建設プロジェクト」]
溶接部は列車が高速で通過しても段差にならないよう高い精度で仕上げられます。そのため乗客から見ると、何本ものレールを接合したとは感じにくい滑らかな線路になります。
なぜ昔の線路は「ガタンゴトン」と音がした?
従来の線路では、例えば25m程度の定尺レールを継目板などで接続し、温度変化による伸縮を吸収できるようレールとレールの間に小さな隙間「遊間」を設けていました。
車輪がその隙間を通過するたびに衝撃が生じるため、「ガタン、ゴトン」という周期的な音と振動が発生します。列車の速度が上がると、継目部分には大きな衝撃荷重も加わります。
鉄道・運輸機構も、定尺レールの遊間では車輪通過時に騒音や振動が発生すると説明しており、新幹線では高速走行の安定性と騒音防止などのため、レール同士を溶接したロングレールを使用しています。
最近の在来線があまりガタガタしないのもロングレール化が理由
この仕組みは新幹線だけのものではありません。鉄道総合技術研究所は、ロングレール化には振動・騒音の低減と乗り心地改善の効果があり、多くの路線で導入が進んでいると説明しています。[参照:鉄道総合技術研究所「固有振動数変化を利用したレール軸力測定方法」]
そのため、都市部の主要路線などで「昔よりガタンゴトンという音が少なくなった」と感じるのは自然です。在来線でもレールを溶接して長尺化した区間が増え、一定間隔で機械的な継目を通過する機会が減っているからです。
さらにロングレール化は乗り心地だけでなく、継目部の保守を減らせるメリットもあります。通常の継目は列車が通るたびに衝撃を受けるため、ボルト、継目板、レール端部、道床などの保守負担が大きくなりやすい場所でした。
それでも在来線で「ガタン」と鳴る場所が残っている理由
在来線のすべての継目を完全になくせるわけではありません。分岐器、特殊な絶縁が必要な箇所、伸縮を処理する場所、構造物との境界、工事中の仮設箇所などでは継目や特殊構造が残る場合があります。
またローカル線などでは、線路条件や保守上の理由から定尺レールが残っている区間もあります。ロングレールを敷設するためには、レールの強度だけでなく、曲線半径、まくらぎ、道床、締結装置などが必要な条件を満たさなければなりません。
そのため同じ列車に乗っていても、しばらく非常に静かに走った後、ある地点だけ「ガタン」と音がすることがあります。必ずしも異常ではなく、線路構造が変わった可能性があります。
ロングレールなら夏の座屈事故は絶対に起きない?
ロングレールには座屈する物理的可能性があります。むしろ夏季の圧縮軸力は、ロングレールを安全に管理するうえで非常に重要な課題です。
鉄道総研は、酷暑期に圧縮方向のレール軸力が大きくなり、許容限度を超えると座屈する懸念があると説明しています。そのため軌道のわずかな横ずれ、道床の状態、締結状態、中立温度などを含めて安全性が評価されています。[参照:鉄道総合技術研究所]
つまり「曲がらない」のではなく、曲がる可能性があることを前提として、それを起こさないよう設計・施工・点検・保守を行っているという説明がより正確です。
冬には逆にレールが切れる方向の力がかかる
夏ばかり注目されますが、冬には逆の問題が発生します。温度低下によってレールは縮もうとするため、拘束されたロングレールには大きな引張力がかかります。
鉄道総研は、温度伸縮による軸力が夏季の張り出しだけでなく、冬季のレール破断につながる可能性があると説明しています。[参照:鉄道総合技術研究所「固有振動によるロングレール軸力測定法」]
夏の圧縮と冬の引張という両方の条件を安全範囲へ収めるため、中立温度やレール軸力の管理が必要になるわけです。
新幹線のスラブ軌道はロングレールとの相性がよい
新幹線ではコンクリート製の軌道スラブ上にレールを固定する「スラブ軌道」が広く使われています。鉄道・運輸機構によると、西九州新幹線でも軌道スラブとレールを基本とする構造が採用されています。
スラブ軌道はバラスト軌道と構造が異なり、レール位置を高い精度で保持しやすく、長期間にわたり高速走行に適した軌道状態を維持するのに向いています。
ただしスラブ軌道だから熱膨張の問題が消えるわけではありません。実際、新幹線スラブ軌道のロングレール端には温度伸縮を吸収する伸縮継目が使われており、支持構造も含めて設計されています。
新幹線と在来線の違いを簡単に整理
| 項目 | 新幹線 | 在来線 |
|---|---|---|
| レール材 | 高強度の鉄道用レール鋼 | 同じく鉄道用レール鋼 |
| 熱膨張 | する | する |
| 主な継ぎ方 | 溶接してロングレール化 | 主要線区ではロングレールが普及、定尺レールも残る |
| 夏の状態 | 圧縮軸力が増える | ロングレール区間では同じ |
| 冬の状態 | 引張軸力が増える | ロングレール区間では同じ |
| 継目音 | 非常に少ない | ロングレール区間では少ない |
| 座屈対策 | 締結・軌道構造・温度・軸力管理 | 同様に軌道条件に応じて管理 |
したがって、新幹線だけが未知の特殊素材によって熱膨張問題を解決しているわけではありません。基本的な物理現象は新幹線も在来線も同じで、必要とされる速度、安全性、軌道構造に応じて設計・管理方法が最適化されています。
「継目をなくしたら膨張できない」という発想こそロングレールのポイント
一見すると、「熱膨張するなら隙間を作った方が安全では?」と思えます。実際、従来の定尺レールはまさにその方法を採用していました。25m程度ごとに遊間を設け、その隙間で伸び縮みを吸収します。
ロングレールは逆転の発想です。自由に伸縮させるのではなく、強く拘束して変位を小さくし、その代わり生じる大きな軸力を計算・管理します。この方法によってレール継目の段差や衝撃を大幅に減らし、高速走行時の安定性、静粛性、乗り心地を向上させています。
そのためロングレールは単純に「溶接すれば完成」ではありません。レール温度、設定温度、軌道横抵抗力、曲線、橋りょう、伸縮継目、レール締結装置などを総合的に考えて初めて成立する技術です。
まとめ|特別な材質ではなく「熱膨張を力として受け止める」技術
新幹線のレールは、熱膨張しない特殊な金属でできているわけではありません。鉄道用の高強度なレール鋼ですが、一般の鋼と同じように温度が上がれば伸び、温度が下がれば縮みます。JR東日本の資料では、1kmのレールが自由な状態なら10℃の上昇だけで10cm以上伸びると説明されています。[参照:JR EAST Technical Review]
ロングレールでは、その伸びをレール締結装置・まくらぎ・道床・スラブなどで拘束するため、夏の熱膨張は主として「レール内部の圧縮軸力」に変わります。その圧縮力は非常に大きく、真夏には60トン近くになる例もあります。
圧縮力が限界を超えればレールは座屈する可能性があるため、レール軸力がゼロになる中立温度・設定温度を適切に管理し、軌道が横へ動かないよう十分な抵抗力を持たせています。ロングレール端など必要な場所には伸縮継目も使われます。
また最近の在来線で昔ながらの「ガタンゴトン」という周期的な揺れが少なく感じられるのも、主要線区を中心にロングレール化が進んでいるためです。鉄道総研も、ロングレール化には振動・騒音の低減と乗り心地改善の効果があるとしています。[参照:鉄道総合技術研究所]
つまり、新幹線の滑らかな乗り心地を支えているのは「熱膨張しない不思議なレール」ではなく、熱膨張することを前提に、伸びを巨大な軸力として安全に受け止めるロングレールと軌道構造、そして精密な保守管理の技術なのです。


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