のとじま水族館で人工尾びれを装着して泳いでいたカマイルカ「ラナン」は、2010年前後に全国的にも注目された個体です。沖縄美ら海水族館の「フジ」に続く人工尾びれ装着例として紹介され、実際に一般公開も行われていました。
ところが現在、のとじま水族館の公式サイトを確認しても、ラナンの名前は近年の飼育個体一覧や2024年の能登半島地震後に避難・帰館したカマイルカの記録には登場しません。2026年9月時点で、ラナンが現在どこか別の水族館で飼育されていることを示す公式な情報は確認できません。
一方、のとじま水族館公式には2017年5月までラナンの生存を確認できる記録が残っています。そのため、「かなり前に別の水族館へ移った」と断定することも、「現在も存命」と断定することも、公開情報だけではできない状況です。
ラナンは1996年にのとじま水族館へやってきたカマイルカ
のとじま水族館の公式記録によると、ラナンはメスのカマイルカで、1996年に同館へ搬入されました。七尾市沖の定置網に迷い込んだ際、すでに尾びれを負傷していた個体です。[のとじま水族館公式・ラナンの記録]
治療が続けられましたが、尾びれの両端が徐々に白く変色し、最終的には尾びれが半分ほどまで小さくなりました。尾びれが十分に使えないため、ほかのイルカと同じように泳ぐことが難しく、当初はイルカショーにも参加していませんでした。
カマイルカは本来群れで生活する動物です。単独飼育が長くなることや運動量不足による肥満も課題となり、そこで人工尾びれを使って泳ぐ能力を補う取り組みが始まりました。
ブリヂストンが人工尾びれを製作した
ラナンの人工尾びれは、のとじま水族館からの依頼を受けたブリヂストンが開発しました。2006年3月に尾びれの型取りなどを行い、2007年1月から人工尾びれを装着したトレーニングが開始されています。
人工尾びれには天然ゴムを主体とした素材が使われ、内部には補強材として帆布が採用されました。タイヤなどで培ったゴム設計・材料開発技術が応用されています。2010年3月20日からは、人工尾びれを付けて泳ぐラナンの一般公開が始まりました。[人工尾びれ開発の経緯参照]
ラナンは、沖縄美ら海水族館のバンドウイルカ「フジ」に続く、ブリヂストン製人工尾びれの2例目として紹介されています。2010年当時の新聞記録にも「世界2例目」として掲載されています。[石川県立図書館・新聞記事記録]
2017年5月まではのとじま水族館で生存が確認できる
ラナンについて確認できる比較的新しい公式記録が、のとじま水族館の2017年5月21日の「すいぞくかん日記」です。記事タイトルは「21年と3か月」で、ラナンが無事に飼育年数20年を超えたことが紹介されています。[のとじま水族館公式・2017年の記録]
1996年2月ごろに水族館へ来ているため、2017年5月時点で飼育期間が21年以上になっていた計算です。少なくともこの時点では、ラナンはのとじま水族館で飼育されていました。
したがって、「人工尾びれが話題になった2010年のすぐ後にいなくなった」というわけではありません。人工尾びれプロジェクト後も長期間にわたって飼育されていたことが公式記録から分かります。
2024年の能登半島地震時のイルカ一覧にはラナンの名前がない
現在の状況を考えるうえで重要なのが、2024年1月の能登半島地震後の記録です。のとじま水族館は被災し、多くの生きものを全国の水族館・動物園へ一時避難させました。
カマイルカについても、越前松島水族館、アドベンチャーワールド、横浜・八景島シーパラダイスへ計12頭が移送されています。2024年末の公式振り返りでは、その個体名として「ゴウ」「ニッシー」「グリム」「カイ」「ナナオ」「イッシー」「キン」「セン」「フタバ」「ニコ」「アンジュ」「ミク」が掲載されています。[のとじま水族館・2024年振り返り]
この避難対象のカマイルカ一覧には「ラナン」の名前がありません。つまり、少なくとも2024年の地震発生時点でラナンがのとじま水族館の現在の飼育カマイルカとして避難した、という事実は確認できません。
別の水族館へ移ったという公式記録も確認できない
では、ラナンは別の水族館へ移動したのでしょうか。現在確認できるのとじま水族館、人工尾びれ開発関連資料、他館の公開情報を調べても、ラナンが他の水族館へ移送され、そこで現在飼育されているという公式な記録は見つかりません。
2024年の地震ではのとじま水族館のカマイルカが複数の施設へ避難しましたが、横浜・八景島シーパラダイスへ避難したのはセン、フタバ、ニコ、アンジュ、ミク、アドベンチャーワールドへ避難したのはグリム、カイ、ナナオ、イッシー、キンです。ラナンではありません。[横浜から帰館した個体][和歌山から帰館した個体]
そのため、2026年現在「横浜や和歌山へ行けばラナンに会える」と考えて訪問するのはおすすめできません。公開情報上、そのような事実は確認できないためです。
現在の存命・死亡時期については公開情報だけでは断定できない
2017年5月には生存が確認できる一方、2024年の飼育個体には名前がありません。この間に何があったのかについて、検索可能なのとじま水族館公式ページや主要な報道資料では、ラナンの死亡日や移動先を明記した情報を確認できませんでした。
したがって、「死亡している」と推測だけで断定することは避けるべきです。同様に、公式情報がない以上「今もどこかで存命」とすることもできません。公開情報から確実に言えるのは、2017年5月にはのとじま水族館で飼育されていたが、2024年時点の同館カマイルカ一覧には含まれていない、というところまでです。
動物園・水族館では、過去のすべての飼育個体について死亡や移動をWeb上で永久に公開しているとは限りません。古いお知らせがサイト移転などで検索できなくなっている可能性もあります。
現在の行方を確実に知りたいなら水族館への問い合わせが最短
ラナンを実際に見に行きたいという目的なら、推測で他館を訪問するより、のとじま水族館へ直接確認するのが最も確実です。公式サイトには問い合わせ先として電話番号0767-84-1271が掲載されています。[のとじま水族館公式]
問い合わせる際は「人工尾びれを付けていたメスのカマイルカ、ラナンについて、現在の所在またはその後の記録を知りたい」と伝えると、一般的な「現在イルカは何頭いますか」という質問より個体を特定しやすくなります。
もしラナンがすでに死亡している場合でも、死亡時期や最期までどのように過ごしていたのかについて、公開ページにはない情報を教えてもらえる可能性があります。ただし個体に関する詳細をどこまで案内できるかは施設側の判断になります。
人工尾びれの「フジ」とラナンは別のイルカ
人工尾びれイルカを検索すると、沖縄美ら海水族館の「フジ」に関する情報が多く表示されます。フジとラナンは別個体なので注意が必要です。
フジはバンドウイルカで、沖縄美ら海水族館に飼育され、世界で初めてブリヂストン製人工尾びれを使用したことで知られています。フジは2014年11月1日に死亡しており、海洋博公園から正式に発表されています。[海洋博公園・フジ死亡のお知らせ]
一方のラナンは石川県・のとじま水族館のカマイルカで、人工尾びれの2例目でした。「人工尾びれのイルカが亡くなった」という検索結果だけを見て、フジの死亡情報をラナンのものと取り違えないよう注意しましょう。
現在ののとじま水族館ではカマイルカを見ることができる
ラナン本人に会えるかどうかは別として、のとじま水族館では現在もカマイルカが飼育されています。2024年末までに避難していたカマイルカが帰館し、2025年3月22日からイルカショーも再開しました。
2026年8月26日の公式案内では、「イルカたちの楽園」でのカマイルカ展示は体調管理のため休止しているものの、カマイルカ自体はイルカプールで見ることができると案内されています。[2026年8月の展示案内]
ラナンをきっかけにカマイルカへ興味を持ったのであれば、現在の仲間たちを見にのとじま水族館を訪れることはできます。ただし展示場所やショー内容は体調・天候などで変わるため、来館直前に公式のお知らせを確認すると安心です。
まとめ|ラナンの最後の確実な記録は2017年、現在の所在は公開情報では確認できない
人工尾びれで知られたのとじま水族館のカマイルカ「ラナン」は、1996年に同館へ搬入され、2007年から人工尾びれのトレーニングを開始し、2010年から一般公開されました。公式記録では2017年5月に飼育21年3か月を迎えていたことまで確認できます。
しかし、2024年の能登半島地震後に公表された同館のカマイルカ避難・帰館記録にはラナンの名前がありません。また、別の水族館へ移動して現在飼育されているという公式情報も、2026年9月時点では確認できませんでした。
そのため現状では、「存命で他館にいる」と考えて見に行ける場所を案内することはできません。ラナンのその後や死亡時期まで正確に知りたい場合は、のとじま水族館へ個体名を伝えて問い合わせるのが最も確実です。少なくとも公開資料上では、2017年まではのとじま水族館で長く大切に飼育されていたことが確認できます。


コメント